"三十周年に施設へ捨てられた妻と予約主の息子" 第16話
亮太は、青ざめた顔でち尽くしていた。 「終わった……美咲の実の付、百万……違約で消える……俺、婚される……」
を抱え、にへたり込む息子。
私はテーブルのの類を丁寧にまとめ、バッグのにしまった。 夫の打ちした『』には、度も触れなかった。
「話は終わりよ」
私はに背を向けた。
「これからは、私の代理である野弁護士を通して話しいましょう。庭裁判所の調で、法律に従って、きっちりと清算させてもらいます」
「真紀……待て、頼むから待ってくれ……!」
背から、夫の掠れた、みっともない懇願の声が聞こえた。 、度も私にをげたことのなかった男の、初めての命乞いだった。
けれど、私は度も振り返らなかった。
玄関のドアをけると、夜空には無数のがたく瞬いていた。 暮らしたをる取りは、議なほど軽かった。
季節がつ巡り、初の差しがを包む頃。
庭裁判所での婚調は、すべて成した。
夫は最まで「の名義は俺だ」と抵抗し続けたが、調委員と裁判官のでその主張はっ端微に砕かれた。 婚姻期、専業主婦期を経てフルタイムパートとして計を支えてきた私の貢献度は、完璧に認められた。
自宅は競売を避けるため、弁護士ち会いのもとで第者に売却された。
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売却額、千百万円。 残っていた宅ローンと諸経費を差し引いた約千百万円の純資産は、法律の定めの通り、真っつに分割された。
私の元には、千百万円の財産分与が、正当な権利として振り込まれた。
夫に残されたのは、同じ千百万円と、積みげてきた社会信用の完全な崩壊だけだった。 織さんからは婚約破棄と精神苦痛による慰謝料請求の内容証が届き、会社の同期や所には「熟婚でを追いされた男」としての噂がれ渡った。 定をに控え、夫は郊の古いワンルームアパートで、きりでカップ麺をすする活を送っているという。 の噂で聞いたが、もう私のったことではなかった。
そして、亮太。
契約直だった築戸建ては、付の百万を放棄して解約となった。 美咲さんのご両親から激され、美咲さんからも半を突きつけられた息子は、数ヶにわたってでいアパートにみ、猛省をいられたらしい。
美咲さんは、子どもののことを考え、すぐには婚届をさなかった。 ただし、条件を突きつけたという。 『の丈にわないは買わない。計の主導権はすべて私が握る。親を騙して追いそうとした自分の卑しさを、反省して償うこと』
息子は今、自分たちのの丈にった古い賃貸マンションで、毎の賃を必に稼ぎながら暮らしている。
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ある曜の夕方。 パートのシフトを終えてスーパーの通用をると、垣のにがあった。
亮太だった。
以のような傲さも、見栄っ張りの余裕も、どこにもなかった。 肩を落とし、作業着のようななを着て、所なさげにっていた。 私を見つけると、息を呑み、駆け寄ってきた。
「……母さん」
「亮太。何の用?」
私の淡な声に、亮太は唇を噛み締め、そのに両膝をつこうとした。 舗装されたアスファルトの面に、座をしようとしたのだ。
「やめなさい」
私の鋭い言に、息子の体が空で止まった。
「みっともない真似はよしなさい。ここは私の職よ。所迷惑だし、世体も悪いでしょ」
亮太はちがり、涙をぼろぼろとこぼしながら、々とをげた。
「ごめん……母さん、本当に、ごめんなさい……」
掠れた、子供のような泣き声だった。
「俺、自分のことしか考えてなかった。の部が欲しいとか、美咲にいい格好したいとか……そんなくだらない見栄のために、母さんのを奪おうとした。……母さんがどんないで俺を育ててくれたのか、考えようともしなかった。本当に……取り返しのつかないことをした」
夕暮れのが、息子の震える背を撫でていく。
私の胸の奥に、かつてのような激しいりはなかった。 けれど、涙もなかった。
「……謝ってもらっても、失われた信用は戻らないわよ」