"三十周年に施設へ捨てられた妻と予約主の息子" 第11話
「あのの査定額は約千百万。宅ローンの残債と諸経費を引けば、元に残る現は千百万よ」
「……ええ。だから、千百万を引いても、まだ千百万残るはずじゃ……」
「本の民法では、婚姻に築いた財産は名義に関わらず夫婦の共財産よ。私には半分の千百万を財産分与として受け取る権利がある。すでに弁護士を通じて内容証を送り、正式に請求したわ」
織さんの瞳が、見かれた。
「千百万……? 奥様が、半分持っていくんですか……?」
「当たりでしょう。私が、パート代から費も息子の学費もし続けて、夫のローン返済を支えてきたのよ。……そしてね、織さん。話はそれだけじゃないわ」
私はを乗りし、女の目をまっすぐに見据えた。
「夫は、息子の亮太にも約束しているのよ。あのを売ったから、千百万を息子の築戸建てのとして渡すってね」
織さんの息が、喉の奥で止まった。
「……千、百万……?」
「算をしてみて」
私は静かに言った。
「亮太への千百万。 あなたへの千百万。 計、千百万よ」
喫茶の無質なクラシック音楽が、やけにきくに響いた。
「を売ってに入る全額は千百万。夫がに対して約束した額は、千百万。最初から、百万りないのよ。しかも、私が円も財産分与を求めず、黙って齢者施設に消えるという、あり得ない提のに成りっていた数字よ」
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織さんの顔から、急速に血の気が引いていった。 唇が刻みに震え、テーブルののを見つめたまま、微だにできなくなっている。
「嘘……そんなはず、ない……。だって隆志さんは、息子も自分の独を応援してくれていて、おのことも全部納得しているって……」
「息子は、父親から千百万もらえると信じ切っていたから、母親を施設に追いすはずをえたのよ。あなたと同じ。とも、同じつの骨に群がっていたハイエナだったのよ」
「ハイエナ……」
織さんの喉から、引きつったような呼吸音が漏れた。
「夫はね、自分に都の悪い現実は見ない男よ。、ずっとそうだった。先だけできなことを言い、りない辻褄は、全部私のと犠牲で埋めわせてきたの。『真紀はどうせ最は折れる』『真紀さえすれば丸く収まる』……そうやって、私を踏み台にしてきてきた男よ」
私はちがった。 伝票をに取り、自分の茶代の千円札をテーブルに置く。
「織さん。あなたがその男とどういう未来を歩もうと、私のったことではないわ。でも、私の取り分である千百万は、円たりとも譲らない。……あのを売ってに入るおは、もうどこにも残っていないわよ」
織さんは返事もできず、青ざめた顔で両でを抱え、震えていた。
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この女も、ようやく理解したのだ。 自分がに入れたとっていた「甘い老の約束」が、初めから実体のない、毒入りのだったということを。
翌の午、野弁護士から送付された『財産分与請求及び産処分禁止の警告』の内容証郵便が、千葉の自宅に届いた。
そのの夜、夫からの話は鳴らなかった。
代わりに、私のスマートフォンを震わせたのは、息子――亮太からの狂乱のメッセージだった。
『母さん、親父と縁を切る。あのクソジジイ、絶対に許さない』 『今すぐ会って話したい。頼むから話にてくれ』
文の連打。 文字の端々から、取り乱した息子の呼吸が透けて見えた。
私は返信しなかった。 ただ、画面を見つめながら、静かにたいを杯んだ。
何が起きたのかは、容易に像がついた。 織さんに問い詰められた夫が、追い詰められ、そして保のために――息子を切り捨てたのだ。
その予は、翌朝、スーパーのバックヤードで完全に裏付けられた。
午、めの休憩に入った私のスマートフォンに、息子の妻・美咲さんから連絡が入ったのだ。 実にを寄せている美咲さんの声は、りと疲労でひどく掠れていた。
『お義母さん……昨夜、亮太が実に乗り込んできたんです。泣きながら、私の両親に座して……』
「亮太が……?」
『ええ。お義父さんに、千百万の援助を反故にされたそうです』
美咲さんが吐き捨てるように語った顛末は、あまりにも醜悪で、そしてあまりにも夫という男の性を正確に表していた。