"三十周年に施設へ捨てられた妻と予約主の息子" 第10話
「な……なんでだよ! 父さんはくれるって言ったんだ!」
「その千百万はね、お父さんがしい女に買うマンションのに、もう使われることになっているのよ」
亮太の表が、凍りついた。
「……え?」
「お父さんは、あのを売った同じつのを、あなたと、あの織という女のに、同に約束したの。……あなたは利用されたのよ、亮太。母親を追いすための鉄砲玉としてね」
亮太の顔から、完全に血の気が失せた。 を半きにしたまま、ち尽くしている。
私はそれ以、言も交わさなかった。 息子の横をすり抜け、駅へと向かうを歩きした。
背から、息子の呼び止める声は聞こえなかった。
ただ、ポケットのでスマートフォンが、たく震え続けていた。 今度は、夫からではない。 らない番号――おそらく、あの女、野織からの着信だった。
盤の駒が、音をてて崩れ始めていた。 棒同士の、醜い奪いいが、いよいよ幕をけようとしていた。
見らぬ番号からの着信画面を、私は暗い駅のロータリーで見つめていた。
指先を滑らせ、通話ボタンを押す。
「……もしもし」
『……佐伯真紀さん、でしょうか』
話の向こうから聞こえてきたのは、微かに掠れた、しかし妙に落ち着き払った女の声だった。 野織。 あの、私のマグカップを握りしめていた女の声だ。
「何の御用ですか」
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『しだけ、でお話しできませんか。隆志さんには内緒で』
ため息混じりの、い声。 勝ち誇ったの傲さではない。 どこか焦燥と、計算が滲みていた。
私たちは、隣駅のホテルのにある喫茶で会うことになった。 夕方。暗い照の内に、客の姿はまばらだった。
奥の席に座っていた織さんは、昨リビングで見かけたとは打って変わって、なグレーのトレンチコートを着ていた。 メイクはっているが、目の奥に隠しきれない疲労が張り付いている。 私が席に着くと、さく顎を引いてをげた。
「急な呼びしに、応じてくださってありがとうございます」
「単刀直入にお願いします。あなたと夫の貞為についてなら、私の代理弁護士を通じて慰謝料を請求する準備をめています。個にお話しすることはありません」
私が淡に告げると、織さんはカップにを伸ばしかけ、止めた。
「……あのを売却しても、おは残らないというのは、本当ですか」
声が震えていた。 謝罪ではない。 この女が気にして取り乱しているのは、最初から「」の方だけだった。
「隆志さんから、何と聞かされているの?」
私の問いに、織さんは膝ののバッグを握りしめ、線を伏せた。
「……あのは、完全に隆志さんの名義だから、売却すれば千百万以の現がそのまま元に残ると聞きました。
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そして、そのから千百万を、私たちが目黒に購入する築マンションのとしてしてくれると」
織さんはバッグから、つ折りにされたを取りし、テーブルのに置いた。 震える指先で広げられたのは、夫の几帳面な文字でかれた、産仲介業者の資シミュレーションシートだった。 余には、夫のきで『織へ 居として1400万円拠を約束する 佐伯隆志』と記されていた。
胃の奥が、たくく沈む。
「織さん。あなたは今、おいくつ?」
「……です」
「婚歴は?」
「……代のに度。それ以来、ずっと賃貸で、で派遣の事務をしています」
織さんの声が、徐々にさくなっていく。
「もう若くありません。これからの老を考えたら、で賃貸を転々としながらきていくのは怖かった。……隆志さんは、企業の管理職で、定も嘱託で残れるし、退職もあると。何より、あのを売ってまとまった現をにして、の名義でマンションを買えば、私の老のまいも保証されると……そう言われたんです」
勝なだった。 のの庭をで踏みにじり、妻を追いす片棒を担いでおきながら、からるのは自分の老のばかり。 同する気など、ミリも起きなかった。
「現実を教えてあげるわ」
私はバッグから、野弁護士が試算したのコピーを枚、テーブルに滑らせた。