"三十周年に施設へ捨てられた妻と予約主の息子" 第9話
「待ってたんだよ、も!」
亮太は股で詰め寄ると、私の腕を乱暴に掴んだ。 鮮魚の臭い匂いが染みついた私の作業着のから、指が肉にい込むほどく。
「痛い……! しなさい!」
「美咲が帰ってこないんだよ! 話してもないし、義父さんからは『娘を返す気はない、付の百万も亮太君が責任を持って穴埋めしろ』って鳴られた! 全部母さんのせいだろ! 何で美咲にあんな写真見せたんだよ!」
搬入をき交うトラックの運転や、勤してきた同僚のパート仲が、驚いてこちらを見ている。 かつての私なら、所迷惑を恐れ、世体を気にして、「ごめんなさい、静かにして」と息子を宥めていたはずだ。
けれど、今の私のに、その卑屈な恥じらいは滴も残っていなかった。
「しなさい、亮太」
私は掴まれた腕を、全の力を使って力づくで振り払った。 亮太がたじろぎ、歩退する。
「美咲さんがっているのは、あなたが母親を騙して追いそうとしたからよ。自分の嘘の責任を、私に押し付けるのはやめなさい」
「嘘じゃない! 俺は族のためにやってるんだ!」
亮太はを抱え、狂ったように叫んだ。
「の学入学までにもうがないんだよ! あのを逃したら、もうあの学区には頃な物件なんかないんだ! 契約を破棄したら、美咲の親の付百万が違約で消えるんだぞ!? 母さん、分かってんのかよ!」
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「ええ、分かっているわ。だから何?」
「だから何って……!」
亮太は信じられないものを見るように目を見き、そして、憎悪に歪んだ顔で私を指さした。
「もうだろ! 何を今さら欲張るんだよ!」
夕暮れの搬入に、息子の号が突き刺さった。
「のババアが、でアパート借りて暮らすのに、何千万円もがいるわけないだろ! 母さんはもうの終わりが見えてるんだよ! でも俺たちには、これから何も未来があるんだ! の未来があるんだよ! なんで息子のを引っ張るんだよ! 母親なら、自分のことより子どもの幸せを優先するのが当たりだろ!」
のババア。 の終わりが見えている。 母親なら、子どものために自分を差しすのが当たり。
の奥で、カッと血が沸騰するような音がした。 だが、そのは瞬で引いていき、代わりに氷のような徹さが、全の血管を駆け巡った。
私は歩、息子へ踏みした。
「亮太」
私の声は、く、静かだった。 けれど、周りのトラックのアイドリング音を切り裂くほど、はっきりと響いた。
「私は歳よ。歳じゃない。私は今もこうして毎働いているし、健康診断だってどこも悪くない。私のは、まだ何も続くの」
「母さん……」
「あなたの言う『子どもの未来』のために、どうして私が、む所も老の活資も全て奪われて、施設に放り込まれなきゃいけないの? あなたがをしているように、私の両親だって、私をして育ててくれたわ。
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誰かの踏み台にするために産んだんじゃない」
亮太の唇が、細かく震え始めた。
「父さんが……父さんが言ってたぞ。母さんはこのを買うとき、円もしてないって。全部父さんの料で建てただって!」
「私が、毎朝に起きて作ったご飯をべて育ったのは誰? あなたの学の学費百万円を、私のパート代の積から払った通帳、見せてあげましょうか? お父さんの料だけでこのが維持できたと本気でっているなら、あなたはただの世らずよ」
亮太は言葉を失い、喉をヒクヒクとかした。 何も言い返せない。 息子の記憶のどこを探しても、母親が贅沢をした記憶などつもないはずだからだ。 美容院にくのをヶし、自分のはスーパーのワゴンセールでしか買わず、全ての余剰を夫のプライドと息子の教育費に注ぎ込んできた。 その母親のき血を啜って育った男が、今、その母親に向かって「の終わりが見えている」と言い放ったのだ。
「亮太」
私は、バッグの持ちをしっかりと握り直した。
「美咲さんとを失いたくないなら、今すぐ産にって、の丈にわない契約をに戻しなさい。お父さんから千百万なんては、円もないわ」