"三十周年に施設へ捨てられた妻と予約主の息子" 第3話
マグカップを持つ指先が、わずかに揺れる。
「え……? あ、あの……奥様、ですか? でも、隆志さんからは……今からしい齢者向け宅に移られて、向こうで第のを始められると……」
「その話を私が初めてにしたのは、ちょうど分です」
「……え?」
「ここは私のです。、私が宅ローンを支え、維持してきたです。あなたがなぜ私のマグカップを使い、私のを段ボールに詰めているのか、説していただけますか」
女は言葉を失い、元をで覆った。 「嘘……だって、おで話しって、円満に別居することになったって……」
その、で激しいブレーキ音が響いた。
ドタドタと乱暴な音が玄関にづき、勢いよくドアがく。 息を切らし、額に汗を滲ませた夫がび込んできた。
リビングにつ私と、青ざめてち尽くす女の姿を見て、夫の顔が絶望に歪んだ。
「さ、織……! 違うんだ、これはちょっとした違いで!」
夫は私を突きばさんばかりの勢いでのに割り込み、女――織の肩を抱き寄せた。
「真紀はただ、残った荷物を取りに来ただけだから! すぐにてくから、おは奥の部に入っててくれ!」
見苦しい。 本当に、吐き気がするほど見苦しい。
私はかなかった。歩も引かなかった。 バッグからスマートフォンを取りすと、無音カメラを起した。
カシャ、という微かな子音とともに、画面に焼き付ける。
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私のが詰められた段ボール箱。 玄関に並んだ見らぬ女のパンプス。 そして、私のマグカップを握りしめ、夫にしがみつく女の姿。
「おい! 何撮ってんだよ! やめろ!」
夫がを伸ばしてスマートフォンを奪おうとしたが、私は半歩がってそれを躱した。
「証拠よ」
私の声に、りのはなかった。 ただただ、氷のように平坦だった。
「暮らしたから、何の法続きもなく配偶者を追いし、別の女性を法に引き入れた証拠。……隆志さん、織さん。リビングに座りなさい。で、最初から話をしましょう」
リビングの空気は、凍りついていた。
ダイニングテーブルを挟んで、私と、夫。 織という女は、リビングの隅のソファに浅く腰掛け、居悪そうに線を彷徨わせていた。 元のマグカップは、テーブルの端に置かれたままだ。
「織さんは、隆志さんとどういうご関係?」
私の問いに、織がびくりと肩をねさせた。 夫が慌てて割って入る。
「おには関係ないだろ! もう俺たちの婚姻関係は破綻してるんだ! 性格の致だ!」
「破綻? 昨の夜まで同じ根ので、私が作った夕飯をべていたが何を言っているの?」
私は線を織に戻した。 逃がさないように、じっとその目を見つめる。
「織さん。あなた、このがまだ婚届をしていないこと、っていましたね?」
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「……それは」
織は線を伏せ、指を組みわせた。 「……聞いていました。でも、もう何もから庭内別居で、奥様も納得ので、施設に入ってで静かに暮らしたいとおっしゃっていると……隆志さんがそう約束してくださったから……」
「約束?」
「ええ。このを売却して、そのおで都内にのマンションを買うにするから、それまでここにんでいていいと……」
ので、カチリと音がした。
を売却する。 織とのしいマンションのにする。
……ちょっと待って。 さっき、亮太は何と言った?
『父さんが、を売れば千百万を援助してくれるって言った』
背筋が、ひやりとたくなった。 このは、築。 数に所の産のチラシで見た相から考えれば、と建物をわせて、せいぜい千百万だ。 宅ローンの残債がまだ百万く残っている。仲介数料や登記費用を引けば、元に残る現はく見積もっても千百万程度。
その千百万から、息子に千百万。 そして、この女にしいマンションの?
計算が、わない。 初めから、絶対に両しない約束だ。
夫は、同じつのを、に同に売り渡す約束をしていたのだ。 そしてその提が――私が銭も財産分与を求せず、黙って施設に消えること。
「隆志さん」
私が静かに名を呼ぶと、夫は苛ちを隠そうともせずに鳴り返してきた。
「何だよ! グチグチと女々しい! 登記簿を見ろ、このは俺の単独名義だ! 俺がどう処分しようが俺の勝だろうが!」