"流産を嗤う義母と四十年前の手紙" 第14話
警察を呼ぶダイヤルを押しかけたところで、音はざかり、やがて夜の静寂が戻ってきた。
そので実へ戻った夫を待ち受けていたのは、さらなる獄だった。
このの来事は、数、奈緒さんから送られてきた音声メッセージでることになる。 奈緒さんが実の片付けを伝いにち寄っていた、り狂った夫が崩れ込んできたのだという。
リビングのドアを蹴破るようにして入ってきた夫は、ダイニングテーブルに座っていた義母に向かって、にした婚届を叩きつけた。
「母さんのせいだ!!」
夫の絶叫が、古い本に響き渡った。
「母さんがあの、変なのことで発狂して、親戚ので恥かかせたからだろ! 由美に『戻ってこい』って言言えば済む話を、余計なこと言いやがって! あいつ、婚届持ってきたぞ! 俺のをどうしてくれるんだよ!!」
義母は、リハビリ用の歩器に両を置いたまま、静かに座っていた。 退院したばかりの体は回りさく縮み、髪が目っていた。 以のような、のちゃんちゃんこを着て親戚を見ろしていた尊さは、微もなかった。
義母はテーブルのの婚届を瞥し、それから自分の代の息子を、え切った目で見つめ返した。
「……健」
「なんだよ! 文句があるなら言えよ!」
「私は確かに、あの娘を傷つけたよ。
広告
、酷いことばかり言って、自分の獄を押し付けた。それは消えない私の罪だよ」
義母の声は、掠れていたが、驚くほど静かだった。
「でもね、健。あの子が台所の隅でで泣いていた、隣でお茶をすすりながら『母さんは悪気がないんだからしろ』って言っていたのは、誰だい?」
夫の息が止まる。
「あの子がお腹を痛めて血を流していた、話をガチャリと切って会議にったのは、誰だい? あの子がの料理を徹夜で作った朝、『粗相のないようにちゃんとやれ』ってから指図しただけで、指本かさなかったのは、誰だい?」
「そ、それは……俺は仕事が忙しくて……!」
「仕事じゃないよ」 義母は首を横に振った。
「おは、楽がしたかっただけだ。母親の嫌取りも、妻の涙を拭うことも、全部面倒くさくて逃げ回っていただけだ。親孝な息子の板だけぶらげて、は女に飯を炊かせて洗濯をさせるだけの、ただの穀潰しだよ」
「な、なんだと……!? 俺はおのために実に残ってやったんだぞ! 同居してやったんじゃないか!」
夫が逆してテーブルを叩いた。 その瞬、横にっていた奈緒さんが、氷のような声で割って入った。
「嘘ばっかり」
夫がギョッとして妹を振り返る。
「お兄ちゃん、お母さんが暮らし用のシニアマンション探してたの、邪魔したじゃない。
広告
『由美さんが広いで暮らしたがってる』って嘘ついて。賃払いたくないから、お母さんのと持ちにタダで寄しただけでしょ」
「奈緒、おまで……!」
「私はもう伝わないよ」 奈緒さんは自分のバッグを肩にかけ、たく言い放った。
「域包括支援センターの続き、全部お兄ちゃんの名義にしておいたから。支援の続きも、自費の訪問介護の契約も、全部お兄ちゃんが自分の料から払って、自分でち会いなさいよ。親孝なんでしょう?」
「待てよ奈緒! に万もかかるんだぞ!? 俺の遣いがなくなるだろ!」
「るか!!」
奈緒さんは鳴り声を残し、玄関をてった。
静まり返ったリビング。 元に散らばった婚届。 夫は髪を掻きむしり、そのにへたり込んだという。
誰も、自分のためにいてくれない。 母親も、妹も、そして妻も。 自分が「当たり」として消費してきた女たちの労働が、すべて自分の元から消えった瞬、を過ぎた男の元には、ただの荒野しか残っていなかったのだ。
それから半。
弁護士を通じた協議婚が、正式に成した。
夫は最まで「やり直したい」「母の介護を伝ってくれればパート代以のを渡す」と見苦しく抵抗を続けた。 だが、弁護士から流産の保護責任放棄に関する医師の所見メモや、婚姻費用の分担義務、のモラルハラスメントの証拠を突きつけられると、最は青ざめた顔で類に判を押した。