"流産を嗤う義母と四十年前の手紙" 第13話
だがすぐに、営業先で見せるような卑屈でわざとらしい笑顔を貼り付けた。
「由美! 良かった、いたんだな……! ほら、けてくれよ。おが好きだった駅ののメロンパンと、いメロン買ってきたんだ。話があるんだよ」
袋を隙から押し込もうとしてくる。 その袋越しに見える指先が、微かに震えていた。
「話なら、ここで聞いています。帰ってください」
「なんでだよ! 夫婦だろ!? ち話なんて所迷惑じゃないか!」
夫は苛ちをわにし、ドアを体で押し込もうとしてきた。 チェーンがギリギリと鈍い属音をてる。 私は眉つかさず、スマートフォンを掲げた。
「これ以騒ぐなら、警察を呼びます。ストーカーとして通報します」
「け、警察……!? お、正気かよ! 俺はおの夫だぞ!」
「鍵を置いててったに、置きを読んだはずです。今の連絡はすべて弁護士を通すと言いました」
夫の息が、荒く乱れる。 目のの男の顔から、貼り付けた笑顔がずるずると剥がれ落ちていく。 焦りと、プライドと、い通りにならない苛ち。
「由美、頼むよ……戻ってきてくれ」
夫は袋をに落とし、ドアの隙にを突っ込んできた。 れみを誘うような、けない声。
「俺が悪かったよ。母さんの方ばかりして、おをにして……本当に悪かった。反省してるんだ。だからさ、もうに流してくれよ」
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反省。 その言葉が、あまりにも軽くて、虫唾がった。
「健さん。私の質問に、つだけ答えて」
私はたく遮った。
「……え?」
「もし私が戻ったら、私たちはどこにむの?」
夫は瞬きをして、当たりだろというようにをいた。 「実だよ。母さん、退院したばかりでじゃ階段も登れないんだぞ。あんな広い、母さんで置いとけるわけないだろ」
「じゃあ、つ目。朝昼晩の事の準備、毎の洗濯、呂掃除、買いしは、誰がやるの?」
「だ、だから、俺も伝うって! ゴミしとか、休みのの掃除くらいなら俺だってやるよ!」
休みのに、気が向いたら伝う。 平の名もなき無数の事は、すべて妻の仕事。 と、ミリも変わらない計算。
「最の質問。来週から始まるお義母さんのリハビリの付き添い、平の午の通院介助は、誰が会社を休んで連れてくの?」
夫の言葉が、ぴたりと止まった。
線がに泳ぐ。 喉仏がにく。 秒、秒の沈黙の、夫は絞りすように言った。
「……由美のパート先ってさ、シフト融通利くんだろ? 俺の会社は今期、事なプロジェクトがあって休なんて取れないんだよ。おがしだけ午抜けて、病院に連れてけば――」
「答えはたわね」
私は夫の言葉を遮った。
「あなたは何つ変わっていない。反省もしていない。ただ、自分の活が便になって、母親の介護費用を払うのが惜しくて、私という無料の政婦を連れ戻しに来ただけよ」
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「ち、違う! 俺はおをして――」
「しているを、も血まみれの記憶のに放置するの?」
私の声に、りはこもっていなかった。 ただ、底えのする事実だけを突きつけた。
「私が流産した、あなたが何に帰ってきたか覚えている? 夜よ。酒の匂いをさせて、ベッドの脇でを掻きながら『母さんも悪気はないんだから』って言ったのよ。……あの瞬から、私はあなたを度もしていない」
夫の顔から、完全に表が抜け落ちた。 幽霊でも見たかのように、を半きにして私を見つめている。
私は玄関の棚から、あらかじめ用しておいた緑の枠線の用を取りした。
『婚届』
すでに私の欄には署名と捺印が済まされていた。 それをドアの隙から、夫の胸元へ滑り込ませた。
「署名して、郵送してください。拒否するなら、庭裁判所に調を申してます。これまでの活費の細、流産の経緯、親戚のでの侮辱の記録、すべて弁護士に預けてあります」
「由美……待てよ、嘘だろ……婚なんて、俺の親戚や会社に何て言えば……!」
世体。 最の最まで、このが配するのはの目だけだった。
「さようなら」
私はドアを閉め、鍵を回し、チェーンをしっかりと掛けた。 からドアを激しく叩く音と、夫のけない鳴り声がしばらく響いていた。 けれど、私は度も振り返らず、奥のキッチンへ戻ってお茶を淹れた。