"流産を嗤う義母と四十年前の手紙" 第4話
その瞳には、親友に対するりではなく、底れない軽蔑とれみが宿っていた。
「……幸子さん。あなたは、自分がされた仕打ちを許せなかったんじゃないのね。自分が誰かを踏みつける側に回りたかっただけなのね」
文さんは静かにちがり、自分のバッグをにした。 そして、引き止める夫の声を背で聞き流しながら、度も振り返ることなく広をてった。
座敷に残されたのは、気まずさと沈黙、そして義母の荒い呼吸の音だけだった。
親戚たちは「そろそろのが」「も仕事があるから」と、逃げるように次々と席をった。 誰も料理にをつけず、豪華な鯛の塩焼きも、私が徹夜で作った筑煮も、ほとんどつかずのままえ切っていた。
午。 親戚が全員ったの田の台所。
静まり返ったのに、から流れるの音だけが響いていた。 シンクには、分の汚れた皿とグラスが、塔のようにうずく積みがっている。
たいで油を洗い流しながら、私のは覚を失いかけていた。 背で、乱暴にリビングのドアがく音がした。
夫だった。 酒の匂いをプンプンとさせながら、苛ちを隠そうともせずに私の背に声を浴びせてきた。
「おい、由美。お、さっきの態度はなんだよ」
スポンジをかすを、私は止めなかった。
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「……私の態度って、何?」
「文さんが変なをしただよ! おがあんな被害者みたいな顔して突っってるから、母さんが余計に興奮したんだろ! 親戚が見てるで、母さんに恥かかせやがって!」
振り向いた私の顔を、夫は見ようともしない。 蔵庫からえた缶ビールを取りし、プルタブを乱暴にけた。
「私が何を言ったの? 私は言も答えしてない。ただ、っていただけよ」
「その気な態度が気にわないんだよ!」 夫はビールを気に呷り、喉を鳴らした。
「母さんだって昔は苦労したんだ。さっき聞いてただろ? 祖母さんにひどい目に遭わされて育ったんだよ。俺だって子供の頃、母さんが泣いてるのを見たことがある。だから母さんはが悪いんだ。悪気があって言ってるんじゃないんだよ」
悪気がない。 また、その言葉だ。
「悪気がないなら……子供も産めない役たずって、親戚ので笑っていいの?」
私の声は、自分でも驚くほど震えていた。 けれど、夫はで笑っただけだった。
「ただの言葉のあやだろ。母さんも歳なんだから、おがしすれば丸く収まる話じゃないか。族なんだからさ。それに、来からの病の話だって、おがにいてくれた方が母さんもするし、俺も助かるんだよ」
夫の目が、私を捉えた。 そこには、妻を傷つけたという自責のなど微もなかった。
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あるのは、「なぜいつものように従順に『はい』と言わないのか」という、純粋な苛ちだけだった。
っていたのだ。 このは、母親がかつて祖母からどんな虐待を受けていたのかを、最初から全部っていた。 そして、母親が今、同じで私をいたぶり、尊厳を奪っていることも、何から何まで理解していたのだ。
理解したで、自分自が「親孝な息子」というよい座布団のに座り続けるために。 母親の悪を私に引き受けさせ、私を代わりの防波堤にして、逃げ回ってきたのだ。
「母さんは悪気がないんだから、おがしろ」
それは、宥めでも仲裁でもない。 「俺を巻き込むな、おがで耐えて俺の平を守れ」という、最も卑劣な命令だった。
蛇をひねり、を止めた。 台所に、苦しい静寂が落ちる。
「……わかったわ」
私が静かに呟くと、夫は満そうに元を歪めた。 「なんだ、分かればいいんだよ。は燃えるゴミのだから、あの座敷の残飯、全部片付けといてくれよな」
そう言って、夫はテレビのついたリビングへと戻っていった。
私は、泡だらけのを見つめた。 赤く腫れがり、覚のなくなった指先。 、このを血の滲むいでかし続け、あの母子に尽くしてきた。 誰からも「ありがとう」の言すら言われないまま。
たいキッチンのので、私のので、何かが音をてて断ち切れた。
? ええ、もう分にした。