"流産を嗤う義母と四十年前の手紙" 第3話
文さんの声には、りも嘲笑も含まれていなかった。 ただ、揺るぎない事実だけを淡々と紡ぐ刃のような徹さがあった。
「あの、あなたは何て言っていた? 台所のに正座させられて、ご飯もべさせてもらえなくて、私の部に逃げ込んできた、震えながら言っていたでしょう」
「や、やめなさいよ文さん! こんな席で何のみっともない話を……!」
義母が声を荒らげ、ちがろうとした。 のちゃんちゃんこが擦れて擦れの音をてる。 だが、文さんは座ったまま、膝のに置いていた黒い革の提げバッグのファスナーを静かにけた。
取りされたのは、布張りの古いアルバムだった。 隅が擦り切れ、経劣化で茶く褪せた冊のアルバム。
「今の古希のお祝いにね、昔の懐かしい写真をまとめてプレゼントしようとって持ってきたのよ。でも……最のページに挟んであったものを、さっき読み返してしまったの」
文さんはアルバムの最のページをいた。 そこに挟まれていたのは、つ折りにされた、っぺらい便箋だった。
鉛で、乱暴に、けれどが破れるほどのい圧でかれた文字。 文さんはそれを義母のの座卓に、すっと滑らせた。
「幸子さん。あなたが、私に宛てていたよ」
義母の線が、その便箋に吸い寄せられる。
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文字の輪郭が見えた瞬、義母の顔から血の気がサーッと引いていくのが、目からでも分かった。
便箋の表面には、震える跡で、こうかれていた。
『いつか息子が結婚したら、私のお嫁さんだけは絶対に事にする。私みたいな獄は、絶対にわわせない』
広が、を打ったように静まり返った。 親戚の誰もが、息を呑んで便箋と義母の顔を交互に見つめている。
夫が狼狽したように声をげた。 「ちょ、ちょっと文さん! 母さんの祝いの席で、体何を持ちしてるんですか!?」
文さんは夫を瞥すらしない。 ただ、義母だけを真っ直ぐに見据えていた。
「幸子さん。あなた、お嫁さんに何て言ったの? 子供も産めない役たず? 料理の腕が悪い? ……あなた自が、ずっと憎み続けていた姑の言葉と、言句違わないじゃない」
私は、胸の奥を槌で激しく殴られたような衝撃を受けていた。
義母が。 あの、私を虫けらのように見し、酷に支配してきた義母が。 かつては、今の私と全く同じ痛みを抱え、同じように泣いていた? そして、未来の嫁を絶対に事にすると、誓っていた……?
座敷の線が、義母に突き刺さる。 誰もが、義母が過をいして涙を流すか、言葉を失って恥じ入るのだとっていた。
だが。
次の瞬、義母の喉から漏れたのは、懺悔の言葉ではなかった。
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「……何よ」
く、濁った声だった。 義母は便箋を乱暴にで払いのけると、鬼のような形相で文さんを睨みつけた。
「何よそれ!! の古臭い切れ枚持ってきて、私のれのに恥をかかせる気!?」
義母の顔が、りと屈辱で真っ赤に沸騰していく。
「私はね! あの頃、由美さんどころじゃない獄を見てきたのよ!!」
広に、義母の号が響き渡った。
「洗濯板で指の皮が擦り切れて血を流しながら、真ので毎百枚の布巾を洗わされた! 事だって、みんなの残り物のえた残飯しかべさせてもらえなかった! おなんかんでしまえって毎毎罵倒されて、それでも歯をいしばってこのを守ってきたのよ!」
義母はちがり、座卓をバンと叩いた。
「今の由美さんなんてね、全自洗濯もあって、洗もあって、かい部で暮らして! 私の苦労に比べたら、爪の垢ほども辛いいなんてしてないじゃないの! 恵まれてるのよ! これくらいして当然でしょうが!!」
……あぁ。
私の体から、すっと温度が消えていった。
このは、忘れていたのではない。 自分が受けた傷を、痛みを、流した涙を、何つ忘れてなどいなかったのだ。
忘れていないからこそ。 自分が耐え抜いたという歪んだ誇りを守るために。 「私が苦しんだのだから、おも苦しむのが当然だ」
と、その痛みをそのまま次の世代へ押し付けていただけだったのだ。
文さんは、く、くため息をついた。