"流産を嗤う義母と四十年前の手紙" 第2話
子供も、いないんだから。
その言葉を聞いた瞬、全の血が逆流するような寒気に襲われた。
の、あのの記憶が、鮮血の匂いとともに脳裏を支配する。
あのも、今のようにたいがっていた。
私の腹のに宿った、さなさなしい命。 結婚して目、ようやく授かった希望だった。
午過ぎ、腹部に激しい痛みがった。 トイレに駆け込むと、着が真っ赤に染まっていた。 の震えが止まらなかった。 汗が額から噴きし、っていることすらできなくなった。
私は必のいで、仕事の夫に話をかけた。
『あなた、お腹が痛いの……血が止まらないの。お願い、病院に連れてって……!』
話の向こうで、夫は面倒くさそうに息を吐いた。
『由美? 俺、今から事なプレゼンなんだよ。抜けられるわけないだろ。母さんに頼んでみてくれよ』
『お義母さんには言ったの! でも、したことないって……自己管理ができてないだけだって、救急も呼んでくれないの! 怖いよ、赤ちゃんが……!』
私の泣き叫ぶ声に対して、夫が返した言葉は淡そのものだった。
『母さんがそう言うなら、し横になってれば治るんじゃないか? げさに騒ぐなよ。会議が終わったらすぐ帰るからさ』
ツーツーという無質な切断音。
あのの絶望を、私は忘れない。 義母はリビングでワイドショーを見ながら、いつくばる私を瞥してで笑った。
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「若い頃の私なんてね、お腹が痛くても田んぼにて働いたものよ。最の若いは、ちょっと血がたくらいで騒ぎして。甘えてる証拠だわ」
タクシーを呼ぶ気力すら奪われ、たい廊で、血まみれになって識を失いかけた。 所のが異変に気づいて救急を呼んでくれたには、もうすべてが遅かった。
処置のい井。 医師の沈痛な面持ち。 「残ですが……流産です」
夜遅く、酒の匂いをさせて病院に現れた夫は、ベッドの横でさくを掻きながらこう言ったのだ。
「残だったな。でも、母さんも悪気があって言ったんじゃないんだからさ。あんまり母さんを責めるなよ」
悪気がない。 その言で、失われたが子の命も、私の尊厳も、すべてがに葬られた。
義母は葬儀の真似事すら許さず、「若いんだから次を産めばいいのよ」と吐き捨てた。 それ以来、私は度と子供の話題をにしなくなった。 夫への期待も、庭への温もりも、すべてをので殺した。 ただ、文句を言われないように完璧な事をこなし、ロボットのようにきることで、なんとか精神の均衡を保ってきたのだ。
それを。 このたちは、の親戚ので、またしても私の古傷をで踏みにじった。 「子供も産めない役たず」と笑いながら。
指先が刻みに震え、角盆ののグラスが触れって微かな音をてる。
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界が涙で滲みそうになるのを、奥歯をギリギリと噛み締めて押し殺した。 ここで泣いたら、また「これだから緒定な嫁は」と笑われるだけだ。
そのだった。
カチャリ、と静まり返った座敷に澄んだ音が響いた。
ののすぐ脇、座の端に座っていたの女性が、静かに湯呑みを座卓に置いた音だった。
文さん。 歳。 義母が若い頃、商で隣同士だった来の親友。 今の古希祝いのために、夫が「母さんがぶサプライズゲスト」としてわざわざ方から招待しただった。
文さんは背筋をまっすぐに伸ばし、静かな、けれど座敷の隅々まで染み渡るような声でをいた。
「幸子さん」
義母が眉をひそめて振り返る。 「……何よ、文さん。急に改まって」
文さんの目は、笑っていなかった。 静かに、じっと義母の顔を見つめている。
「あなた、のことを忘れたの?」
座敷の空気が、ふっと止まった。 親戚たちの線が、斉に文さんに集まる。
義母の顔から、先ほどまでの得げな表がわずかに引きつった。 「な、何を言ってるのよ。昔のことなんて……」
「。あなたも全く同じことを言われて、私ので晩泣きかしたじゃない」
義母の肩が、びくりとねがった。
「子供がをして寝込んでいるのに、法事の料理を作らされて。
がい、際が悪い、男の嫁のくせに気が利かないって、のあのお義母さんに親戚同ので鳴りつけられて」