"流産を嗤う義母と四十年前の手紙" 第1話
皿に盛られた筑煮の湯気の向こうで、義母が甲い声を響かせた。
「うちの嫁は経っても付けつ覚えなくてね。子供も産めない役たずなんだから、せめて料理くらいはにこなしてほしいものだわ」
分の親戚が集まる広。 響いていた笑い声と箸の音が、瞬で止まった。
……あ、まただ。
胃の底が、きゅっとたく縮みがる。 喉の奥がカラカラに渇いて、唾をみ込むことすらできない。
の夜から仕込みを始め、今朝は午起き。 刺の柵を引き、茶碗蒸しの卵液を漉し、里芋の皮を剥き続けて、私の親指の腹は洗剤とで赤くふやけていた。
眠はらず。 今朝、起きてきた夫が台所のシンクを覗き込んで放った第声は、労いでも謝でもなかった。
「母さん、今は古希祝いで主役なんだからさ。由美、粗相のないようにちゃんと頼むぞ」
それだけだった。 昨夜私が何に布団に入ったのかも、両のあかぎれがどれほど裂けているのかも、夫の目には最初から映っていなかった。
座敷の隅で、私は料理を載せた角盆を抱えたままち尽くしていた。 親戚の叔父や叔母たちが、居悪そうに線を泳がせる。 誰も義母の言葉を咎めない。 ただ、聞かなかったことにして酒のグラスにを伸ばすか、引きつった笑いを浮かべるだけ。
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(誰か、何か言ってよ)
胸ので声にならない鳴をげる。 私は、座に座る夫の横顔をじっと見つめた。 助けてほしかった。 せめて、「母さん、そんな言い方はないだろ」とその言だけでよかった。
夫は、ゆっくりと急須をに取り、自分の湯呑みにお茶を注いだ。 そして、私の線を完全に避けるように線を落としたまま、ぽつりと言った。
「母さん、今はめでたいなんだからさ。その話はやめようよ」
……は? その話はやめよう?
庇ったのではない。 ただ、そのの空気が悪くなるのを避けるために、私への侮辱を「めでたいの余計な雑音」として片付けただけだ。 私の尊厳など、最初から夫ののにはしていなかった。
義母はを鳴らし、のちゃんちゃんこの襟元を誇らしげに直した。 そして、ビールを喉に流し込むと、いしたようにを打った。
「そうそう。今はもうつ、皆さんにいい報告があるのよ」
座敷の親戚たちが「なんだい?」「いい話?」と顔を見わせる。 夫がちがり、満げに元を緩めた。
「実は、母さんが来、膝の術を受けることになりまして」
を背に流し込まれたような覚がった。 ……術? 義母の膝の調子が悪いのはっていた。 でも、術の程が決まったなんて、私は言も聞かされていない。
嫌な予で背筋が総毛つ。
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夫は親戚同を見渡しながら、誇らしげに胸を張って言葉を続けた。
「退院はリハビリも必だし、母さんじゃだからさ。由美がパートのシフトを減らして、のことと母さんの病をにやってくれる予定です。だから皆さん、配しないでください」
座敷から「おお、それはだ」「由美さん、できたお嫁さんだねえ」と拍が湧き起こる。
のが真っになった。 の奥で、キーンという鋭い属音が鳴り響く。
パートを減らす? 私の仕事は、域の配サービスでの厨補助と事務作業。 千百円、週。 結婚して、義母の支配から唯逃れられる、私のささやかな居所。 私が自分ので稼ぎ、自分の名で社会と繋がっていられる、最の命綱。
それを勝に減らす? 言の相談もなく? の親戚ので、既成事実として発表する?
「ちょっと、あなた……」
震える声で夫を呼んだ。 夫は私をちらりと横目で瞥すると、で見せる貼り付けたような営業スマイルを浮かべ、い声で囁いた。
「由美、親戚のだぞ。空気を読め」
空気を読め。 その言葉が、私の喉元に鋭い刃物のように突き刺さる。 義母が勝ち誇ったような笑みを浮かべ、元の刺をつつきながら追い打ちをかけた。
「子供もいないんだから、そのくらいしてもらわないとね。
嫁に来ても遊ばせておいたんだから、これからはしっかり田に尽くしてもらわないと」