"5kmで3万円、客は元タクシー運転手だった" 第4話
私は静かに頷いた。
「ええ、メーターを使わないのはいけないことなんじゃありませんか」
蛭田は乱暴に肘掛けを叩いた。
「うるさいな。文句があるなら警察でも呼べばいい」
彼は私を見すように目を細めた。
「どうせあんた何にも分かっちゃいないんだから」
私はゆっくりと首を横に振った。
「いいえ。何もわかりませんよ」
本当は何もかも分かっていたけれど、私はそう答えてそっと目を伏せた。
蛭田はドスを聞かせた声で脅してきた。
「を払わないうちは、りられるとわないことだね」
彼は窓ののを指差した。
「このの、そので墓まで歩く気かい」
私は自分の膝に線を落とした。
膝がまた鈍く痛んでいた。
霊園の坂を歩けというのか。
それでも私のは、議なくらい静だった。
コートのポケットのでは、あの起した録音がずっと回り続けている。
この男の声は、言残らずそこに入っている。
私は財布をいた。
1万円札を3枚抜きし、彼の方へ差しした。
わざと震える指のふりをして、ゆっくりとを伸ばす。
「わかりました。払います」
蛭田はひったくるように札を受け取った。
「最初からそうすりゃいいんだよ」
私は彼の背を見つめながら尋ねた。
「運転さん、お名伺ってもよろしいかしら」
男は札を数えながらで笑った。
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「はあ。名なんてあんたに関係ないでしょ。さっさとりて」
彼は満げにを鳴らした。
私は黙ってのドアをけ、へた。
ドアが閉まると、タクシーはしぶきをげてりっていった。
私はの、傘をさして歩きした。
やがて、夫の墓のにつ。
たい墓に、そっとを当てた。
私はに濡れる墓を見つめながら呟いた。
「お父さん、悔しいわね」
私は墓で静かに誓った。
「でも私、泣き寝入りはしませんからね」
私はコートのポケットを、そっと指で押さえた。
にはあの男の声を残したままの携帯話がある。
震える指のふりをしながら、私は男の言葉を最まで聞いていた。
あなたならこういうどうしたでしょうね。
返事はないけれど、答えはもう私の胸のにあった。
寄りをい物にするような男を見過ごすわけにはいかない。
はいつのにか、しだけ細くなっていた。
に帰り着くと、コートの裾は濡れ、元はえ切っていた。
私は傘を閉じ、い取りで玄関をがる。
膝の痛みより、胸の奥のざらついた覚の方がずっとこたえた。
私は台所へ向かい、引きしから古い帳を取りした。
えた指でボールペンをしっかりと握る。
帳をき、記憶をたどりながら文字をき込んだ。
のナンバー。
運転者証にかれていた蛭田という名と登録番号。
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乗った刻とりた刻。
った順。
覚えているうちに、1つずつき留めていく。
の仕事をしていた頃から、気になったことはすぐにき留める癖があった。
き終えると、私はコートのポケットから携帯話を取りした。
録音データを再する。
画面を見つめていると、スピーカーからあの男の声がはっきりと流れした。
『料は3万円です』
貸切りだという嘘も、領収を拒んだ声も、りろと脅した言葉も。
何つ欠けることなく残っている。
私は携帯話を握りしめた。
これだけ揃っていれば分だ。
ので逆らわなかったのも、わざとだった。
言い争えば、証拠を消されたかもしれない。
そので静さを失わないこと。
それも、あのとこの仕事に関わるでにつけたことだ。
その、玄関の鍵がく音が聞こえた。
私は振り向いて声をかけた。
女のゆい子が入ってきた。
鍵で々様子を見に来てくれるのだ。
ゆい子は私の濡れたコートを見て、目を丸くした。
「お母さん、ただいま。どうしたの?その濡れたコート」
彼女は慌ててづいてきた。
「お墓、こんなのったの?」
私は帳を置き、ゆい子の顔を見た。
「ええ。それよりゆい子、ちょうど良かった」
私は彼女をテーブルの席に促した。
「聞いて欲しいことがあるの」
私は霊園へ向かうタクシーであったことを、順を追って話した。
メーターを倒さなかったこと。
回りをしたこと。
5kmほどので3万円を取られたこと。