"5kmで3万円、客は元タクシー運転手だった" 第2話
私はちがり、かける支度を始めた。
コートを羽織り、仏壇のに静かに座る。
夫の遺を見つめ、そっとをわせた。
私はので、彼に向かって語りかけた。
今もってきますね。
ゆっくりとちがろうとした瞬、膝がずきりと痛んだ。
私は顔をしかめ、膝にを当てた。
のは決まって、この痛みがひどくなる。
こので霊園まで歩いていくのは、到底無理だった。
私はタクシーを呼ぶため、再び携帯話をにした。
いつもの会社に話をかけたが、そのに限ってが払っていると言われた。
私は話帳を調べ、初めてのタクシー会社に話をかけた。
配をお願いし、話を切ってから窓のを眺める。
配を待ちながら、私は昔の自分をいしていた。
タクシーに乗るは決まって、自分でハンドルを握っていた頃のことが蘇ってくる。
こので40、数えきれないお客さんを運んできた。
お客さんはただの荷物ではない。
11に帰りを待つ族がいて、切な用事がある。
その命を預かって無事に送り届けること。
それが私の、何よりの誇りだった。
その誇りをまさかこの命に踏みにじられることになるとは、いもしなかった。
がくなった頃、からの音が聞こえてきた。
1台のタクシーがしぶきをあげて、のに止まった。
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私は傘を差し、ゆっくりとにづいていった。
部座席のドアが自でく。
私は運転席の方に線を向けた。
運転席には、髪交じりの男が片腕を肘掛けに乗せて座っていた。
彼の顎には無精髭が伸びている。
制もかぶっておらず、制もしわだらけのまま、だらしなく着崩していた。
男は窓をしだけけ、面倒くさそうにこちらを見た。
彼はりて荷物を持つこともなく、ただ顎をしゃくって図をした。
「乗れ」
私は黙ったまま、彼を見つめた。
男は嫌そうな声をした。
「どちらまで」
私は傘を閉じ、部のシートに腰をろした。
内にはタバコの匂いがうっすらと残っていた。
私は方を見つめた。
助席の背には、運転者証が掲げられている。
写真と蛭田という苗字、そのの登録番号もはっきりと見えた。
私は彼に向かって、静かに目を告げた。
「の霊園までお願いします」
蛭田はを向いたまま、ぶっきらぼうに答えた。
「永ね。はいはい」
私はしを乗りし、丁寧な調で言った。
「の、ありがとうございます。助かります」
蛭田は気のない返事をした。
「はいはい」
男はルームミラー越しに私をちらりと見ただけで、をした。
タクシーがりしても、私はじっとを見つめていた。
彼はメーターにを伸ばそうとしない。
料が表示される気配も、まるでなかった。
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うっかり忘れているのではない。
わざとメーターをかさずにいるのだ。
それくらいは、この仕事をしてきた私にはすぐに分かった。
私はし背筋を伸ばし、周囲を観察した。
メーターもかさないような男だ。
何をしてくるか分かったものじゃない。
私はのため、コートのポケットのにを入れた。
探りで携帯話の録音能をそっと起する。
ほどなくして、私はのむ方向がおかしいことに気がついた。
霊園へは、川沿いのをまっすぐけば5kmもない。
それなのに男はわざわざ反対方向の通りへて、混んだ交差点をいくつも曲がり始めた。
私はを乗りし、運転席に向かって声をかけた。
「運転さん、霊園なら川沿いまっすぐの方がいですよ」
蛭田はを向いたまま、で笑った。
「お客さん、こっちの方がいんだよ」
彼はハンドルを切りながら、面倒そうに続ける。
「で川沿いは渋滞するの」
私はの景を確認し、静かに反論した。
「でも、このなら川沿いはそんなに混まないといますけれど」
蛭田はルームミラー越しに私を睨みつけた。
「お客さん、運転してるのは俺なんだけど、素がいちいちをさないでくれる」
私はく息を吸い込み、線をげた。
「そうですね。ごめんなさい」
蛭田はきく舌打ちをした。
「体あんたら寄りはすぐに文句を言う」
彼はさらに言葉を荒げる。
「なんてのは運転に任せときゃいいんだよ」