"5kmで3万円、客は元タクシー運転手だった" 第1話
たいが、窓ガラスを激しく打ち据える午だった。
私は古い軒の居に座り、じっとの景を見つめていた。
64歳になった今、3に夫を見送ってから、こので1暮らしをしている。
くのマンションには38歳になる女のゆい子がんでいる。
互いに気を使わずに済むように、私たちはまいを分けて活していた。
私は若い頃から、にわたってタクシーやハイヤーの運転をしてきた。
女がこの仕事をするのは、まだ珍しい代のことである。
夫の笠原も同じ業界にいて、運転を送りす運管理の仕事をしていた。
今の私は、もう自分での運転をすることはない。
どこかへかけるは、タクシーに乗せてもらう側になっていた。
それでも、運転として培ってきたの識と経験だけは、今も私のにしっかりと残っている。
や事故のことなら抵相談に乗れるため、所のたちは何かある度に私を頼ってきていた。
その朝も、玄関の方から慮がちな声が聞こえてきた。
私はゆっくりとちがり、玄関へ向かった。
扉をけると、隣にむ田島さんが申し訳なさそうな表でっていた。
彼女はさくをげる。
「笠原さん、ごめんなさいね」
私は彼女の顔を穏やかに見つめ返した。
「またのことで、ちょっと教えて欲しくって」
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私は優しく微笑み、でのを指し示した。
「あらあら、いいのよ。さあ、入ってちょうだい」
田島さんはし躊躇しながらも、玄関にを踏み入れた。
彼女はそうに両を組みわせる。
「実はね、このの事故で相の保険会社がしてきた額が、どうもない気がして」
私はく頷き、彼女の目を見た。
「あらあら、保険会社が最初にしてくる額はね、抵なのよ」
私は言葉を区切り、真剣な表を作った。
「鵜呑みにしちゃだめ。まず事故の過失割、つまりどちらにどれだけ責任があったかの割をどう決めたのか聞いてご覧なさい」
田島さんは真剣な顔つきで私の話に聞き入っている。
私はさらに言葉を続けた。
「そこがし変わるだけでもらえる額は随分変わるの」
田島さんの顔がるくなり、ほっとしたように息を吐いた。
「さすがね。うちの主も笠原さんに聞けば違いないっていつも言ってるのよ」
私はし照れくさくなり、線をに向けた。
「いことに乗る仕事をしてきたからね。事故や保険のことは嫌でも詳しくなるのよ」
田島さんはもう度、くをげた。
「本当に笠原さんがいてくれていわ。速そう言ってみる」
私は彼女の肩を軽く叩いた。
「ええ、うまくいくといいわね。困ったはお互い様よ」
田島さんは何度も礼を言いながら、自分のへと帰ってった。
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彼女の背を見送りながら、私は静かにドアを閉めた。
誰かの役にてることは、1暮らしの私にとってささやかなびである。
けれど、戸を閉めて1になると、のが急に広くなったようにじられた。
夫をくしてから、この静けさにだけは未だに慣れずにいる。
私は居に戻り、子に腰をろした。
しばらくすると、テーブルのに置いた携帯話が鳴り始めた。
画面に目をやると、ゆい子という文字が表示されている。
私は携帯話をに取り、通話ボタンを押してに当てた。
話の向こうから、娘の配そうな声が聞こえてくる。
「お母さん、今命でしょ?お墓くの?」
私は窓ののを見つめながら答えた。
「ええ、くわよ」
ゆい子はし声を潜めて言った。
「こんなだし。お墓は今度にしたら丈夫よ」
私は携帯話を握るにし力を入れた。
「お父さん待ってるもの」
ゆい子の声がさらに配そうになる。
「無理しないでね。膝悪いんだから」
私はわず苦笑し、るい声をした。
「平気よ。膝の痛みくらいどってことない」
私は胸を張り、昔をいしながら言った。
「これでも昔はでもでもをらせてきたんだから」
ゆい子は話の向こうできなため息をついた。
「はいはい。その自話、もう何回も聞いた」
娘の憎まれがおかしくて、私は声をげて笑った。
そのまま笑いながら話を切り、携帯話をテーブルに戻す。