みかん小説
本棚

"介護を奪われた私へ「お母さん、やっと会えた」" 第8話

そして、テーブルのに、あの冊の『介護誌』を広げました。

恵子さんは怪訝そうにその黒いノートを眺めました。

「これは……?」

「お義父さんの、過の記録です」

私は冊目、義父が倒れた平成の終わりのノートをきました。

「お義父さんが倒れてからの千百、毎の体温、血圧、んだ薬の種類、排泄の回数と状態、リハビリの捗を記録したものです。そして、毎かかった介護保険の自己負担分、医療費、オムツや清拭タオルの領収も、すべて付順に貼ってあります」

恵子さんは息を呑み、恐る恐るページをめくり始めました。

そこには、私の几帳面な文字が、びっしりと並んでいました。 『午分、寝返り介助。腰の痛みを訴えるため湿布貼付』 『午、流百ミリリットル摂取。誤嚥なし』 『午、デイサービス送りし。担当の坂本さんより、歩器での歩訓練が良好との報告あり』

ページをめくるごとに、領収の束が現れます。 病院の領収、薬局の調剤細、介護ベッドと子のレンタル請求。 そして、それらの支払元として記録されているのは、義父の国民の振込座からの引きしと、私の個名義の通帳からの記録でした。

恵子さんのが、刻みに震え始めました。

「……お兄ちゃんの名が、どこにもないわ」

広告

「ええ」 私は静かに言いました。 「浩司さんがこので、お義父さんの医療や介護のために直接支払った額は、ゼロです。浩司さんがに入れていた万円の活費は、の費と費だけで消えていました。りない分は、お義父さんのわずかな貯の取り崩しと、私の内職の収入で補填していました」

ノートの余には、折、震える歪な文字が混ざっていました。 脳梗塞でに麻痺が残った義父が、でペンを握り、懸命にいた文字でした。

『由美さん、今もありがとう』 『背を拭いてくれて、気持ちがよかった』 『すまないね、本当にすまないね』

恵子さんはその文字を見た瞬、両で顔を覆い、しゃくりあげるように泣き崩れました。

「……ごめんなさい……ごめんなさい、由美さん……!」

細い肩が、激しくしていました。

「私、何もらなかった……お兄ちゃんが、話するたびに言ってたの。『親父の介護にはがかかる。俺が銭を切って、番いいケアマネとヘルパーを雇ってやってる。由美はにいて指示をしてるだけだから楽なもんだ』って……! 私、それを信じて……くに嫁いだからって、全部お兄ちゃんに任せきりにして……!」

「恵子さん、顔をげてください」

「私だって同罪よ!」 恵子さんは涙でぐしゃぐしゃになった顔をげ、自分を責めるように叫びました。

広告

「お父さんが倒れた、子供たちの受験や夫の転勤を言い訳にして、に回くらい顔を見せるだけで……お兄ちゃんがやってくれてるとい込んで、逃げてたのよ! 由美さんがで、こんな……こんなノートを冊もくような活を押し付けられてたなんて……私、お父さんの娘失格だわ……!」

私はそっと、コンビニで買ってきたパックのお茶を恵子さんのに置きました。

「恵子さんを責めるためにこれをお見せしたわけではありません。ただ、っていてほしかったんです。お義父さんが最期まで尊厳を保って暮らせたのは、浩司さんのおのおかげでも、浩司さんの親孝のおかげでもないということを」

「分かってる……痛いほど分かったわ」

恵子さんは袖で涙を乱暴に拭い、ノートをく握りしめました。

「あのはね、お父さんが若い頃、朝から晩まで町で働いて、骨を削って建てたよ。お母さんがくにくなってから、男つでお兄ちゃんと私を育ててくれた、お父さんのそのものなの。それを……あんな女と暮らすために更にして売りばすなんて、絶対に許さない」

恵子さんの瞳に、確かなりの炎が宿っていました。

「由美さん、私はあのの売却には絶対に同しない。遺産分割協議にも、絶対にハンコは押さないわ。

お父さんの遺産を、あいつのい通りになんて絶対にさせない!」

実の妹から突きつけられた、完全な拒絶。 夫が信じて疑わなかった「俺の実、俺の」

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: