"妊娠十二週、民政局前の裏切り" 第12話
「本当に……もうってしまうんだな」 謝言が、しだけ寂しさを滲ませた声で微笑みかけた。 予は振り返り、悪戯っぽく元を緩めて頷いた。 「ええ。昨の葬儀にを輪だけ向けたのは、過の自分への義理よ。あのに残してきた未練なんて、もう爪の先ほどもないわ。私のは、もうどこにも縛られていないの」 謝言は堵したように息を吐き、静かに彼女を見つめ直した。 「君のその顔が見られただけで、俺がこれまでしてきたことのすべてが報われた気がするよ。……京都での展示会の成功の、ヨーロッパやアメリカの主メゾンから、君への烈なオファーが殺到している。ファッション界の頂点に君臨する『Queen』の完全復活を、世界が息を呑んで待っているんだ」 「ありがとう、先輩。先輩の助けがなければ、私はあの暗から抜けすことすらできなかった。命を救われただけじゃなくて、私の魂と誇りまで取り戻してくれた……謝してもしきれないわ」 「よしてくれ。俺はただ、君が本来いるべき所へ戻るための背を押したに過ぎない。君自のさと才能が、を切り拓いたんだ」
予は肩から掛けていたトートバッグにを差し入れ、冊のなスケッチブックを取りした。 質な革で装丁されたその表には、の箔押しで『Rebirth――Queen』の文字が刻まれている。
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予はそれを両で抱え、謝言のへと差しした。 「これ……私が版した、しいデザイン集の初版よ。先輩に番に受け取ってほしくて、持ってきたの」 謝言は目を丸くし、畏れい宝物を受け取るようにして、慎にそのスケッチブックをに取った。 ゆっくりと表をくと、そこには息を呑むほどに美しいデザインの数々が広がっていた。 かつて陸氏グループのために描いていたような、の求や商業主義に妥協したデザインではない。 痛みをり、裏切りを乗り越え、絶望の淵からいがってきたの魂が宿った、圧倒な力さと繊細な気品。布のドレープのつひとつに、彩のグラデーションのひとに、自由を希求する命の躍が満ち溢れていた。 ページをめくる謝言の指先が、わずかに震える。 「……素らしいな。言葉を失うほどだ。ここには、君の魂そのものが描かれている」 「ええ。過の私が流した涙も、失われた命への祈りも、すべてこのデザインのに昇華させたわ。私はもう、誰かのために自分のを隠したりしない。世界の々に、を向いてきる勇気を与えられるようなを作り続ける……それが、これからの私のきるよ」 予の瞳は、朝のを反射して琥珀に澄み渡っていた。そこには点の迷いも、もしなかった。
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謝言はスケッチブックを胸に抱きしめ、の底からの敬と温もりを込めて微笑んだ。 「ありがとう、予。の宝物にするよ。……君の歩む未来が、どこまでもに満ちていることを、から祈っている」 「ありがとう、先輩。先輩も、お元気で」 はく、しかし固く握を交わした。互いののひらから伝わる温もりは、過の苦難を共に乗り越えた戦友としての、確かな絆の証だった。
『――全空〇〇便、パリきをご利用のお客様にご案内いたします。搭乗続きを始いたしますので……』 ロビーに澄んだアナウンスが響き渡った。 予はスーツケースのハンドルを軽く引き、度だけ謝言に向けてさくを振った。 「じゃあ……ってきます」 「ああ。ってらっしゃい、予」
背を向け、搭乗ゲートへと歩みをめる予の取りは、驚くほど軽やかだった。 ハイヒールの乾いた音が、規則正しく理を叩く。 かつて彼女の首に巻き付いていた目に見えない鎖――妻としての義務、族からの圧、理尽な犠牲、そしてという名の執着――それらはすべて綺麗さっぱりと断ち切られ、々に砕け散っていた。 保検査を抜け、ボーディングブリッジへと続くガラス張りの通をむ。 ふと線をげると、窓の向こうには、果てしなく広がる広な青空が広がっていた。
つない、吸い込まれそうなほどの蒼穹。 昇りゆく太陽のが世界をあまねく照らし、これから彼女がびつ空の彼方まで、どこまでも、どこまでも澄み渡っている。
予はを止め、その眩いを胸いっぱいに浴びた。 頬を撫でる朝のは温かく、優しく、彼女のしいの幕けを祝福していた。 唇の端に、自然と誇りい微笑みが浮かぶ。 「私のは……ここから始まるのよ」
誰のためでもない、自分自のための未来へ向かって。 唐予は誇りく顔をげ、たなが待つ空へと、力く羽ばたいていった。