"病室を愛人に譲れと言った医師の夫" 第11話
すべて、自らの傲と誠実が招いた当然の帰結だった。
「私の会社との契約は、末で適法に終しています。規の業務委託をご希望であれば、当社の営業窓へ正式にお申し込みください。ただし、現の空きリソースと貴院の財務リスクを鑑み、お引き受けできる能性は極めていですが」
「そんな儀なことを言うなよ!」 夫の声が裏返り、りと懇願が混ざりったれな叫びへと変わった。
「俺たちは夫婦じゃないか! 、緒にやってきただろ!? 俺のクリニックはおのクリニックでもあったはずだ! スタッフを……のを、から戻してくれ。かだけでいい。頼む、助けてくれよ真由美! 夫婦なんだから、これくらい助けうのが当たりだろう!?」
夫婦。 助けい。
その言葉がにび込んできた瞬、私の喉の奥から、たい乾いた笑いが零れそうになった。
切迫産で点滴に繋がれ、で震えていたあの病の寒さが、鮮やかに蘇る。 部へけと鳴りつけ、歳のを優先し、お腹ののが子を欠陥品呼ばわりした男。
あの、この男は私のことを「妻」だとっていたのか。 都のいい召使、タダで使える労働力、いくら踏み躙っても逃げさない無抵抗なサンドバッグとしかっていなかったはずだ。
広告
私は呼吸をつした。 臓の鼓は驚くほど静かで、声には切の乱れもなかった。
「……浩司さん」
静かに、けれど氷のように研ぎ澄まされた声で、私は言った。
「あなた、何か勘違いをしているようですね」
受話器の向こうで、夫が息を呑む気配がした。
「助けうのが夫婦? どのがそんなことを言っているの?」
私は歩、夜の静寂に包まれたリビングの窓辺へと歩み寄った。 の灯りが、くでたく瞬いている。
「妊娠かの私に向かって、『に病を譲れ』と言ったあの瞬――」
言葉を区切り、私は確に引導を渡した。
「あなたが自ら、私たちの関係を完全に清算したのよ」
庭裁判所の調をると、廊のい井から差し込む午のが、ひどくく眩しかった。
藤本弁護士が隣で静かに鞄のファスナーを閉めた。 「真由美さん、お疲れ様でした。これで婚届、財産分与、そして養育費の公正証作成まで、すべての条件が法に確定しました。もうあのたちがあなたに直接干渉する法段は残されていません」
「……ありがとうございました、先」
娘は半を迎えていた。 首がすわり、抱っこ紐ので嫌よくをバタつかせている。 見りが始まったばかりで、見慣れない調委員の顔を見ては、私の胸元に顔を埋めていた。
調の席、夫側は必だった。
広告
最初は「妻の悪の遺棄だ」と喚き散らしていたが、藤本弁護士から提された客観証拠――病での追いし未遂の録音、のモラハラ発言のメモ、クリニックにおける方な契約改定の証拠、そして織への正な資流用記録――のに、夫の代理弁護士すら匙を投げていた。
最終に、夫の唯の求は「子どもに会わせてほしい」という点だけになった。
「父親としての権利がある」 「面会交流を回は認めろ」
調委員に泣きついた夫に対し、私は拒絶しなかった。 法な権利を論で塞ぐ必はない。 庭裁判所の面会交流で、専の調員ち会いのもと、分だけの面会に応じる旨のにサインした。
そしてそのの午、面会のがやってきた。
面会交流のいドアがき、夫が入ってきた。
目にした瞬、息が止まりそうになった。 かつて仕ての良いスーツをに纏い、級計を誇らしげに見せびらかしていたあの傲な業医の面は、どこにもなかった。
ヨレヨレのシャツ。 入れのされていない無精髭。 頬はげっそりとこけ、目のには黒々とした隈が張り付いていた。 織との同棲活はすでに破綻し、織は子どもを連れて実へ逃げ帰り、クリニックの債務返済のために駅のタワーマンションも引き払ったと聞いていた。
夫は私を恐る恐る見つめ、それから私の胸のにいる娘に目を留めた。 その瞳に、信じられないほどの激しい揺と、すがるようなが宿った。