"病室を愛人に譲れと言った医師の夫" 第9話
メッセージアプリをく。 通欄には、夫からの連絡は件もなかった。 おそらく今頃は、クリニックの混乱にも気づかず、織の嫌を取りながら、しいサロンの準備に浮かれているのだろう。
私は夫の連絡先をかなかった。 まれた赤ちゃんの写真も、産の報告も、送るつもりは毛なかった。
それは、夫への当てつけでも、復讐でもない。
自分の子どもを「欠陥品」と罵り、の妻を個から追いそうとした男に、この奇跡のような瞬の欠片すら共する資格はないと、魂の底から確信していたからだ。
夫は自ら、父親になる権利をドブに捨てたのだ。 その事実のさに、あの男はまだ、気づいてすらいない。
娘がかを迎えた、私の会社『メディ・リンク・インターナショナル』と夫のクリニックとの包括業務委託契約は、契約満を迎えて正式に終した。
引き継ぎ期のか、私の会社のスタッフたちはプロとして完璧に職務を全うした。 子カルテの翻訳ログ、過分の国患者対応マニュアル、緊急の医療事故防止プロトコル。 それらすべてをファイリングし、クリニックの事務へ受領印をもらって引き渡した。
専任コーディネーターの名が最終の挨拶に院へ向かった際、夫はパソコンの画面から顔もげず、こう言い放ったという。
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「ご苦労さん。まあ、誰がやっても同じような定型業務だったけどね。これからはうちのスタッフと翻訳アプリで回すから、い注費が浮いて助かるよ」
スタッフからその報告を聞いたとき、私は自宅のリビングで、ミルクをみ終えて微む娘の背を静かにトントンと叩いていた。
悔しさもりも湧かなかった。 ただ、怜悧な確信だけがあった。 あの男は、本当に何も分かっていないのだと。
崩壊は、委託契約が切れた翌週から、驚くほどの速さで始まった。
。桜の季節にわせて、からの富裕層観客や国患者の予約が急増する期だった。 夫は経費削減のため、私の会社への委託料を削った浮いた予算で、織がプロデュースする「審美アートメイク部」の内装に派な資を注ぎ込んでいた。
だが、現の皮膚科来は瞬で獄と化した。
最初に起きたのは、額レーザー治療を受けたVIP患者との刻なトラブルだった。 私のスタッフがいた頃は、施術の丁寧なカウンセリングで、肌のメラニン量に応じた照射力のリスクや、施術かの厳格な線対策を、相の母国語で徹底に説し、署名を取っていた。
しかし、夫が雇った千百円のパート事務員と無料の翻訳アプリでは、医療の微細なニュアンスなど到底伝わらなかった。
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術、度の炎症素沈着を起こした患者が、り狂って使館や現の旅代理にクレームを入れ、診察に鳴り込んできたのだ。
「説など受けていない」 「同にいてあった英語はの械翻訳だった」
患者側は医療過誤を主張し、全額返と数百万単位の損害賠償を請求してきた。 夫は自の英語で反論しようとしたが、法な抗弁ができるほどの語学力はなく、診察の奥で青ざめてち尽くすしかなかったという。
追い打ちをかけるように、織が鳴り物入りでちげたアートメイク部に、管轄の保健所から突然のち入り検査が入った。
織がSNSで見つけてきた施術者は、医師免許も護師資格も持たない無資格者だった。 医師法第条違反の疑い。 無資格者による針を用いた素注入為は、らかな違法為だ。 夫は「妻(織)に任せていたかららなかった」と言い訳を並べてたが、管理責任者である院の責任が免れるはずもない。
保健所からの政指導と業務改善命令。 クリニックの待には穏な空気がち込め、勤めていたベテランの護師と受付主任が、過労と恐怖に耐えかねて同に退職届を叩きつけた。
夫は慌てての医療通訳会社に見積もりを取ったが、提示された額は、私の会社に支払っていた委託料の倍かった。