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"恩人面する夫の47分" 第7話

夫の顔に浮かんでいたのは、かつての絶対な傲さではない。 自らが犯した罪のさに、底なしの暗へと引きずり込まれていくの――紛れもない、恐怖そのものだった。

「違う……! 俺じゃない、俺は……!」

夫は喉の奥をひきつらせ、脂汗で額をらせながら、狂ったように首を横に振った。 けれど、その濁った瞳はテーブルのに置かれた佐々さんの帳から度たりともれない。

「違う? 何が違うの」 私の声は、氷のように滑らかで、かった。

「1807分に入館したこと? 1825分に赤いファイルを抱えて部をたこと? それとも、父がを叩いて助けを求めているのを無したこと?」

「言いがかりだ!」 夫は突然、破れかぶれに鳴り声をげた。 ちがろうとしてをもつれさせ、リビングのローテーブルに膝を激突させる。 ガチャン、と先ほど倒れた湯呑みがに落ちて割れた。

「そんな昔の、のおかしい事務員の妄なんか証拠になるか! 親父は全だったんだ! 医者もそう診断した! 警察だって事件性はないと判断しただろうが!」

「警察がそう判断したのは、あなたが『たった今発見した』と嘘をついたからよ」

「黙れ!」

夫の声がリビングに反響する。 だが、その叫び声にはもう、以のような妻を見す傲さは微もなかった。 張り子の虎が、自らの内側の空洞を暴かれて怯えているだけの、惨めな鳴。

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その、部の隅で凍りついていた義母が、うようにして夫にすがりついた。

「浩司……嘘よね? 違うわよね? あなた、由美さんのお父さんを助けようとしたのよね!? 何も悪いことなんてしてないわよね!?」

義母の声は裏返り、震える指先が夫のワイシャツの袖をく引き絞る。 世体。息子の名誉。そして、社の母親という自分のプライド。 それを守りたいで、義母は夫の顔を見げ、すがるように懇願していた。

だが、夫はその母親のを、力任せに振り払った。

「うるさい! 黙ってろババア!」

「きゃっ……!」

突きばされた義母が、絨毯のに無様に尻もちをつく。 呆然と見かれた義母の目から、スーッと涙が零れ落ちた。 いつも自の種だった息子。 「優秀で、先代の何倍も派」だと親戚に誇らしげに吹聴してきた息子。 その息子から浴びせられた暴力と罵声に、義母の顔は瞬で老のそれへと萎縮していった。

私は義母のに歩み寄り、たく見ろした。

「お義母様」

義母がビクッと肩をねげ、私を見げる。

「あなた、っていましたね」

「え……?」

「浩司さんが、父が倒れたあの夜、すぐに救急を呼ばなかったこと。……っていたんでしょう?」

義母の瞳が、恐怖で激しく揺れいた。 唇が刻みに痙攣し、線が宙を泳ぐ。

「な、何を……そんなこと……」

「の、法の準備のあと、浩司さんとで斎で言い争っていましたね。

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リビングまで漏れていましたよ。『あの、取り乱して通報が遅れた』と浩司さんがあなたに泣きついていた声が」

それは、私の徹なカマかけだった。 あの夜、確かには激しく言い争っていた。 けれど、具体な言葉までは聞き取れていなかったのだ。

だが――義母の脆い精神は、その言で完全に決壊した。

「ち、違うのよ! 浩司は怖かっただけなの!」

義母はに両をつき、取り乱して叫び声をげた。

「あの子、気が転してが真っになってたのよ! 悪気なんてなかったの! 誰だって、目のでが倒れたらパニックになるでしょうが!?」

「母さん、やめろ!!」 夫が血相を変えて割って入ろうとする。

だが、義母のはもう止まらなかった。 息子の罪を「恐怖のせい」にして庇うことしか、彼女のには残っていなかったのだ。

「あの子は怖くてけなかっただけなのよ! それに……それに、あのすぐに呼んでいたって、先代が助かったかどうかなんて誰にも分からないじゃない! もうんじゃったなのよ!? 今さらそれを蒸し返して、私の浩司を科者にする気!? あなた、鬼なの!? 夫を破滅させる気なの!?」

リビングに、義母の絶叫が霊した。

……決まりだった。

夫のから聞くに、実の母親のから、最悪の自供がびした。

夫はパニックでけなかったのではない。 パニックになりながらも、庫のダイヤルをわせ、正取引の証拠類を抱えて部をるだけの静さは持ちわせていたのだ。

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