"恩人面する夫の47分" 第5話
『親父はで酷く疲れて眠っている。絶対に起こすな。の朝まで誰にもづかせるな。おもさっさと帰れ!』って……」
「……父は、眠っていた?」
「私、怖くなって『はい』って答えて、逃げるように階段を駆けりました。でも……でも、その、部の奥から微かに聞こえたんです」
佐々さんが両で顔を覆った。
「ドン、という、いものがを叩くような音と……苦しそうに、息を吸い込もうとする、かすれた声が。眠っているの声なんかじゃ、絶対にありませんでした」
目のが、真っ暗になった。
あの。 夫が社に入ったのは、1807分。 佐々さんが夫を目撃したのが、1825分。 そして、夫が119番を押したのは、1854分。
夫は――。 苦しみ、を叩いて助けを求めていた父の姿を、その目で見ていた。
見ていながら。 「親父は眠っている」と部に嘘をつき、追い払った。 そして、そのには、父の庫から抜き取った『赤いファイル』が握られていた。
父が倒れてから、救急を呼ぶまでの30分以もの。 夫は、苦しむ義父を元に放置したまま、庫のダイヤルを回し、自分の罪を隠す類を物していたのだ。
『が真っになって、すぐに救急を呼んだ』?
吐き気がした。 胃の底から、たいものがせりがってくる。
もの。 私は、父を見殺しにした張本に向かって、毎「お疲れ様」「ありがとう」とをげていたのか。
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父の命を迎えるたび、義母から「浩司に謝しなさい」と説教され、それを受け入れていたのか。
「佐々さん」
私の声は、震えていなかった。 震えることすら忘れるほど、全の細胞が、凍りついた刃物のように鋭く研ぎ澄まされていた。
「これ……その帳を、証言としてお借りしてもいいですか」
佐々さんは涙を拭い、しっかりと頷いた。
「さんから聞きました。社が、会社のおを奪って逃げようとしているって。……先代には、本当にお世話になったんです。こんな帳で役につなら、警察でもどこでも持ってってください」
喫茶をた直、スマートフォンがけたたましく鳴り響いた。 画面には、夫の名。
「もしもし」
『おい、どこにいる! にいろと言っただろうが!』
受話器の向こうから、声が突き刺さる。
『今すぐ戻れ。お袋も呼んである。事な類に判子を押してもらうからな』
「……今、所に買い物にていました。すぐ戻ります」
『まったく、ぐずぐずしやがって。分で戻れ!』
話は方に切れた。
私はタクシーを拾い、自宅へと急いだ。 移の、本先にメッセージを本だけ送る。
『先。証拠はすべて揃いました。予定通り、めてください』
自宅のドアをけると、玄関には見慣れた義母の派なパンプスと、夫の革靴が並んでいた。 リビングの引き戸をけると、異様な空気が漂っていた。
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ソファの央に、腕を組んでふんぞり返る夫。 その隣で、値踏みするようなたい目をこちらに向ける義母の千代子。
テーブルの央には、枚の類が広げられていた。
枚は、緑の枠線で縁取られた、婚届。 そしてもう枚は――『株式譲渡契約』とかれた、の面。
「遅いわよ、由美さん。どれだけを待たせる気?」
義母が扇子をパチンと鳴らして吐き捨てた。
夫は皿に煙を押し付け、顎でテーブルの類を指した。
「座れ」
私は言われた通り、の向かい側の子に静かに腰をろした。
「単刀直入に言う」 夫が、勝ち誇った笑みを元に浮かべた。
「俺とおは、今で終わりだ。婚する」
部のに、乾いた沈黙が落ちる。
「……婚、ですか」
「そうだ。俺はこの、親父の遺したガタガタの会社を必でて直してきた。だがおはどうだ? 事つ満にできず、会社の経営にも何つ貢献しない。社の妻としての器がなさすぎるんだよ」
義母がすかさずを挟む。
「そうよ。浩司みたいな派な男にはね、もっとにて脈を作れる、若くて能な女性が必なの。あなたみたいに、ただに引きこもって飯を炊いてるだけの女じゃ、息子のまといなのよ」
の言葉の裏にあるもの。 伊藤美穂との再婚。 そして、会社の完全な私物化。
「それにだな」 夫が、テーブルのもう枚の類を私のに突きした。
「おが持っている藤原精の株。