"恩人面する夫の47分" 第4話
に入っているのは、父が遺した記帳と、私がしく登録し直した実印。 そして、あの黒い万。
テーブルので眠る夫のスマートフォンが、チカリとった。 画面に浮かびがったのは、美穂からのメッセージ。
『、3,000万が着したら、予定通り婚届をしてくださいね。あの鈍な奥さん、何もらずに追いされるのがお似いです♡』
私は画面を見つめ、声をさずに、静かに笑った。
何もらない? ええ、そうね。、私は何もらなかった。
でも、浩司さん。 本当に何も分かっていないのは――あなたの方よ。
翌朝、夫はひどい酔いの顔で起きてきた。
ネクタイを乱暴に緩め、洗面所から戻るなり、テーブルに突っ伏すように腰掛ける。
「おい、由美。痛薬と」
いつもの、喉の奥から絞りすような嫌な声。 私は何も言わず、常温のとい錠剤をトレイに乗せて差しした。
夫はそれを乱暴にみ干すと、私の顔を瞥もせず、ソファの背もたれにを預けた。
「……今、役員会が終わったら、事な話がある」
胃の奥が、ぎゅっとたくなる。
「事なお話、ですか」
「ああ。おもいつまでも親父の遺産に甘えてきてるわけにはいかないだろう。これからの活設計について、現実な話をまとめなきゃならん。昼過ぎには戻るから、にいろ」
『現実な話』。
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昨夜、あの女――伊藤美穂が送ってきたメッセージの文面が、脳裏をかすめる。 『予定通り婚届をしてくださいね』。
夫はもう、このも、会社も、そして私というも、すべて始末をつけるつもりでいる。 自分の正が暴かれるに、3,000万円を抜いての会社へ逃げ込む。 その絵図を、完璧に描き終えたつもりでいるのだ。
「分かりました。でお待ちしています」
私が静かにをげると、夫はで笑った。
「本当に、従順なことだけが取り柄だな。……まあ、せいぜい部の掃除でもしてろ」
ドスン、と乱暴に玄関ドアが閉まる音。 夫の級のエンジン音がざかっていくのを確認してから、私はきした。
く着替えを済ませ、バッグに実印と分証、そして父の遺品である古いアドレス帳を入れる。
目は、会社ではない。 郊の宅にある、古びた喫茶だった。
昨夜、さんが教えてくれた所。 のあの、18半に社で夫を目撃したという、元製造部の女子社員――佐々さんが待っているはずだった。
「……藤原、由美さん……ですね」
の奥、擦り切れたビロードのソファに座っていた柄な女性が、怯えるようにちがった。 かつて父が「真面目で先が器用な子だ」と目を細めていた、の若い事務員。 今はもう退職し、別ので暮らしていると聞いていた。
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「佐々さん、突然呼びしてごめんなさい。さんから聞きました」
私がをげると、彼女は両で包むように握っていたカップをカタカタと震わせた。
「私……ずっと、誰にも言えなくて。ずっと、怖かったんです」
彼女の瞳から、粒の涙が零れ落ちた。
「の1118。……あの夜、何を見たのか、教えてもらえますか」
私の静かな問いかけに、彼女は唇を噛みしめ、バッグの奥から冊のさな帳を取りした。 角が擦り切れ、ページがし黄ばんだ、当の業務誌。
「あの、私は曜の荷伝票の控えをに忘れてしまって……1820分頃、通用からこっそり会社に戻ったんです」
彼女の指先が、帳の1118のページをなぞる。
「事務所の気は消えていたんですが、奥の社のドアが、しだけいていて……から、をめくるような、激しい物音が聞こえました」
臓の鼓が、の奥でドクドクと鳴り始める。
「先代がまだ残業されているのかなとって、ご挨拶しようとづいたんです。そうしたら……」
佐々さんの息が、規則に乱れた。
「社からてきたのは、専務――今の浩司社でした」
「夫が……何をしていたの?」
「浩司専務は、背広の着を脱いでいて、額にびっしり汗をかいていました。両で、あの先代が切にされていた『赤い革のファイル』を胸に抱え込んでいて……。
私と目がった瞬、専務、ものすごい顔で私を睨みつけたんです」
喉の奥が、カラカラに干からびていく。
「専務は私に駆け寄ってきて、肩を痛いくらいに掴んで、こう鳴りました。