"二十八年の遺言、追放された妻" 第12話
翔太も、美咲さんも、修夫婦も、信じられないものを見る目で正を見つめている。
正は震える指で類を掴もうとしたが、力が入らずに指先が空を切った。
「む……昔の話だ! そんな昔の類を持ちして、何になるんだ!」
「昔の話? でも、登記は今も効よ。そしてね、ここにはこうもいてあるわ。『由美さんがとったら、売るも残すも由美さんの自由にする』って」
正の目が、恐怖で見かれた。
「お……本当に売る気なのか……!?」
「まだ決めてないわ。でも――」
「絶対に売るな!!」
正が突然、獣のような咆哮をげて鳴り散らした。
翔太が「親父、やめろよ!」と止めに入ろうとしたが、正はそれを振り払って叫び続けた。
「売るな! ここは俺のだ! 、俺が汗垂らして支えてきたなんだぞ!」
私の胸の奥で、静かに炎が燃えがった。
私はゆっくりとちがり、夫を真っ向から見据えた。
「何を支えてきたの?」
正の息が止まる。
「事も、子育ても、お義父さんのの世話までした介護も、全部私がでやってきたのよ。固定資産税の通、誰宛てに届いて、誰の座から引き落とされていたかってる? 私のパート代と、私の名義の座よ。根の修繕費も、壁の塗装代も、私がコツコツ貯めたおからしてきたの。あなた、宅ローンの名目で自分の料を使っていた気になっていたけれど、そのローンだって、お義父さんがあなたの千百万円の借を肩代わりして完済してくれたの、残りの端数に過ぎなかったじゃない!」
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「千百万円……!?」
翔太が息を呑んで父親を見つめた。
「親父……借してたのか……?」
修も信じられないといった表で兄を見つめている。
「兄貴……親父にそんなを払わせてたのかよ……」
正は顔を真っ赤にし、逃げを失った獣のように肩をらせて私を睨みつけた。
「族ので……昔のことを蒸し返すんじゃねえ!」
「族?」
私は静かに微笑んだ。
「昨、私をその『族』から真っ先に切り捨てたのは、あなたよ」
正は完全に言葉を失い、崩れ落ちるように子へとへたり込んだ。
翔太が、涙を浮かべて私を見げてきた。
「母さん……ごめん。俺……本当に、何も分かってなかった……」
「いいのよ、翔太。今分かれば、それでいいの」
私はバッグをに取り、へと向かおうとした。
そして、最に夫の背に向けて、釘を刺すように言い放った。
「正さん。忠告しておくわ。もし私に無断でを売ったり、担保に入れたり、勝に名義を変えようとしたら、私は即座に法な続きを取って、あなたを民事でも刑事でも訴えますからね」
その瞬だった。
正の肩が、自然なほど激しくビクッとねがった。
そして、線をに落としたまま、顔面を気に変させて直したのだ。
私の背筋に、たい嫌な予がった。
この反応は、おかしい。
ただの脅しに怯えている反応ではない。まるで――すでにやってしまったろめたい秘密を突かれたの、戦慄の反応だった。
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「……正さん」
私はを止め、振り返った。
「あなた……まさか、もう何かやったの?」
正は線を泳がせ、唇を固く結んで何も答えない。
部の空気が、再び急速にえ込んでいく。
「親父……?」
翔太が審そうに父親の顔を覗き込んだ。
「親父、母さんの言う通りなのか? 何かしたのかよ!」
修もちがった。
「兄貴、何をしたんだ! 言えよ!」
全員の追及の線に晒され、正はついに耐えきれなくなったように、両でを抱え、掠れた声で状した。
「……仮契約を……結んだんだよ……」
部の空気が、完全に凍りついた。
「何の、仮契約?」
私の問いに、正は絞りすように答えた。
「……の、売却の仮契約だ……」
が止まったかのようだった。
昨、私には「翔太たちにを譲る」と偉そうに宣言しておきながら、その裏で、すでにこのの売却続きをめていたのだ。
「誰に売ったの?」
「……産だ……」
「いくらで?」
「……千万円だ……」
私は乾いた笑い声を漏らした。
相馬先と確認した適正な査定額は、隣接を含めて千百万円。それを、元を見られてわずか千万円で買い叩かれ、仮契約を結んでいたのだ。
しかし、問題は額ではない。
「……名義は、私よ」
私は歩、正の目のへと歩み寄った。
「契約に、名義の署名捺印が必なはずよね。私の署名は、どうしたの?」