"二十八年の遺言、追放された妻" 第7話
『ふざけるな! 笑い事じゃないぞ! なんでおの単独名義になってるんだよ!』
私はベッドからちがり、窓をけた。朝のたいが、照った部の空気を爽やかに洗い流していく。
「、お義父さんがくなる直に、私に贈与してくれたからよ」
受話器の向こうで、正が息を呑む音が聞こえた。
『……そ、そんな話、俺は聞いてないぞ! 覚えてない!』
「忘れたの? あなたも緒に司法士さんの事務所にって、類に実印を押したじゃない」
正は完全に絶句した。
記憶の底に沈んでいたの景が、気に脳裏に蘇ったのだろう。自分の借でが差し押さえられそうになり、父親に叱責され、嫁の名義にして難を逃れた、あの屈辱な々の記憶が。
しかし、夫は往際悪く、なおもいがってきた。
『だ、だが……夫婦のだろ! 実質には俺たちのじゃないか!』
「ええ、今まではそうっていたわよ」
私の声が、段くなった。
「でも、あなた、私に何の相談もなく、息子夫婦にを譲るって勝に決めたわよね? 所者である私に、言の確認も取らずに」
『そ、それは……族なんだから……』
まただ。
都が悪くなると、すぐに「族」という便利な言葉を持ちしてくる。
「族? 族なら、どうして私だけが何もらされていなかったの?」
『…………』
「翔太も、美咲さんも、みんなっていた。
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らなかったのは、このの名義である私だけ。それが、あなたの言う『族』なの?」
受話器の向こうの正の声が、目に見えて々しく縮んでいく。
『……悪かったよ。俺が悪かった』
まれて初めて聞く、夫の謝罪の言葉だった。
しかし、あまりにも遅すぎた。のを踏みにじったで吐きされたその言葉には、何のみも、何の誠もじられなかった。
『だから、帰ってきてくれ。な? ちゃんと話しおう』
「何のために? 今更何を話しうの?」
『この……翔太たちも、すっごく楽しみにしてるんだよ。美咲ちゃんだって、もう具の配置まで考えてるんだ。今更なしになったら、あいつらがだろ……』
また、私ではない。
息子の都。嫁の期待。自分の体面。
、このを磨き、守り続けてきた私の尊厳など、この男ののには最初からしていないのだ。
「……ねえ、正さん」
『な、何だ?』
「私が、どうしても嫌だって言ったら、どうするの?」
話の向こうが、い、い沈黙に包まれた。
その沈黙だけで、答えは分かりきっていた。
結局のところ、私の志など邪魔なだけなのだ。「由美なら最はしてくれる」「適当に宥めれば従う」――そうを括っているだけなのだ。
私はややかに言い放った。
「今は帰らないわ。これから、司法士の先と会って相談することになっているから」
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正の声音が、気に狼狽のを帯びた。
『な……何を話すんだよ! お、まさかを売るつもりなのか!?』
「まだ決めてないわ」
私は拍のを置き、はっきりと告げた。
「でも、売却も選択肢に入っているわよ」
『ゆ、由美! おい、待て! 由美――!』
私は容赦なく通話を切断した。
午。
私は内の古いオフィスにある、相馬司法士事務所のドアを叩いた。
応接に通されると、迎えてくれたのは先代の相馬先の息子さんで、現の所を務める若き司法士だった。
「由美様ですね。お話でお伺いした件、過の台帳と法務局の登記記録を照いたしました」
相馬先は分いファイルをデスクのに広げ、最の登記事項証を指差した。
「違いありません。ご自宅のおよび建物は、にお父様である健様からの贈与により、由美様の単独所となっております。共持分すらしません」
私は類の文字を目で追った。
「夫が、私の承諾なしに息子へ名義を変更したり、第者へ譲渡したりすることは能でしょうか?」
相馬先は即座に首を横に振った。
「能です。産の所権移転登記には、名義ご本の実印、印鑑証、登記識別報(権利証)が欠です。ご主様が独断でめることは法に切できません」
「……分かりました」
その、バッグのでスマートフォンがさく震えた。画面を見ると、息子の翔太からだった。
私は相馬先に会釈をして、そので通話ボタンを押した。