"二十八年の遺言、追放された妻" 第3話
それがしくなっただけの話だ。おだって、い息子のためなら文句はないだろ?」
私はさく、く、息を吐きした。
「……そうね」
「分かってくれたか。なら話はい」
正はそう言って、再びテレビの画面へと線を戻し、めかけた噌汁をみ干した。
その夜、私はいつもと同じようにちがって台所へと向かった。
テーブルの器をげ、シンクにを張り、洗剤の泡で丁寧に皿を洗いげた。シンクのステンレスを布巾で拭きげ、ゴミをビニール袋にまとめてを縛る。ベランダから取り込んであった洗濯物のを畳み、夫の肌着と自分のを仕分ける。
居では、正がテレビのバラエティ番組を見ながら、本目の缶ビールをけて喉を鳴らしていた。
すべてが、いつも通りの常の景だった。
しかし、私ののの景は、完全にを失っていた。
夜のを回った頃、私は階へがるためにリビングの引き戸にをかけた。
その背に、正の声が投げかけられた。
「おい、由美。な、翔太と美咲がを見に来るから」
私は階段の途でを止め、すりを握ったまま振り返らずに尋ねた。
「……何しに?」
「部の使い方を決めたいんだとさ。あいつら、リビングの壁を変えたいとか、階の客を自分たちの寝にしたいとか々考えてるらしい。
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だからおも、自分のいらないものがあるなら、そろそろ理しとけよ」
私は階段の暗がりので、そっと目を閉じた。
そして、唇の端をわずかに持ちげた。
「……分かったわ」
階の寝に入り、静かにドアを閉める。
かりだけが差し込む暗い部で、私は壁面に広がるきなクローゼットの扉をゆっくりとけた。
私のと、夫のが、然と並んで吊るされている。
。
本当に、くて、空虚なだった。
私はクローゼットの奥から、型のスーツケースをつ、そして型のキャリーバッグをつ、へと引きずりした。埃を払い、チャックをける。
そこからは、迷いのない作業だった。
着替えのためのを数着。着を数分。
タンスの引きしの奥から、私個の名義の預通帳を取りす。私の実印、印、健康保険証、帳。くなった母から形見分けとして譲り受けた、さなオパールの指輪。
そして、棚の奥に眠っていた何冊もの族アルバムにが伸びた。
翔太がまれたの写真。初めて補助輪なしの自転に乗れたの写真。このので、義父と正とで並んで撮った写真。
私はアルバムのみをのひらにじながら、数秒、じっとその表を見つめた。
そして、静かに元の所へと戻した。
写真はいらない。記憶は、この胸のに持っていればそれで分だ。
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午を回る頃、つのスーツケースはパンパンに膨らみ、私の私物のうち、本当に必なものだけがすべて収まっていた。部の計が、カチ、カチと静かにを刻んでいる。階からは、正のいいびきが微かに響いていた。
翌朝、午半。
階段をりてきた正が、玄関のにっている私と、その元に置かれたつの巨なスーツケースを見て、ギョッとしたように目を丸くした。
「……なんだこれ。おい、由美、お何やってんだ?」
私は靴の紐を結び終え、ゆっくりとちがった。着の襟元をえ、まっすぐに夫の顔を見つめる。
「荷物よ」
「荷物って……どこへくんだよ?」
「しばらく、別のところで暮らすわ」
正の顔が、見るみるうちに赤黒く染まっていった。眉にい皺を刻み、苛ちを隠そうともせずに声を荒らげる。
「はあ!? 別のところってどこだよ! なんでそんなとこくんだ!」
「あなた、昨言ったじゃない。このを翔太たちに譲るって」
「言ったよ! だからって、今すぐおがていく必なんてないだろ! まだ引っ越し先も決まってないのに!」
私は静かに微笑んだ。
「でも、あなた昨の夜、私に『いらないものはそろそろ理しろ』って言ったわよね」
正は言葉に詰まり、線を泳がせた。
「そ、それは……そういうじゃないだろ!」
「じゃあ、どういうだったの?」
夫は何も答えない。をごもごもとかすだけで、線を私の元のスーツケースへと逸らす。