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"午前二時の着信と百枚の遺言" 第11話

そして、乳首を千尋ちゃんの唇に優しく触れさせた。 さなが吸い付くようにき、ちゅぱ、ちゅぱ、と規則正しい音が静かな部に響き始めた。 千尋ちゃんは両を哺乳瓶に添えるようにして、全の力を込めてミルクを喉へと流し込んでいく。ゴクン、ゴクンというさな嚥音が、元に届く。 「んでる……」 拓也が息を呑むように呟いた。 「昨はあんなに嫌がって、哺乳瓶を押し返して泣き叫んでたのに……ちゃんと、んでくれてる」 「温度がちょうどいいんだよ。おの温もりも、真由さんの言葉も、ちゃんと伝わってるんだ」 私が言うと、拓也は千尋ちゃんのをおしそうに撫でた。 赤ん坊の細い髪の毛が、朝のに透けて淡いに輝いている。額にはっすらと汗が滲み、ミルクをむことだけにさな命の全エネルギーを傾けているのが痛いほど伝わってきた。 きている。 真由さんが命を削り、そのを賭してこの世に遺したつの命が、今、父親の腕ので、確かにきようとしている。 その姿を見つめる拓也の横顔には、もう迷いはなかった。父親としての覚悟が、血肉となって彼の骨に染み込んでいくようだった。

やがて哺乳瓶が空になり、チュパッという音とともに乳首がれた。 満した千尋ちゃんは、の端から筋のいミルクを垂らし、ふう、とい息を吐きした。

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「よし、ゲップだな」 拓也は千尋ちゃんを縦に抱き起こし、自分の肩にさな顎を乗せさせた。そして、真由さんのメモをいすように、背をのひらでトントンと、優しくリズミカルに叩き始めた。 数分、さな「げふっ」という音が漏れ、千尋ちゃんは脱力したように拓也の首筋に顔を埋めた。 その無防備で全幅の信頼を寄せた姿に、拓也の目元が再び緩んだ。 「くなったな……まれたときは、壊れそうなくらい軽かったのに」 「きくなってるよ。おが必で育ててきた証拠だ」 私が言うと、拓也は千尋ちゃんを抱き直しながら、ふと線をローテーブルののスマートフォンへと向けた。 画面は暗転したままだが、そこには彼が頑なにざけていた現実が詰まっていた。

「……俊介」 拓也が静かにをいた。 「実に……話しようとう」 私はく頷いた。 「ああ。それがいい」 「お袋たち、葬儀の、何度も『千尋を連れて実に戻ってこい』『伝いにくから鍵をくれ』って言ってくれたんだ。でも俺……張ってさ。『自分の族のことは自分でやるから、構わないでくれ』って、たく突き放しちまったんだよ。配かけるのが嫌だったし……親に甘えたら、真由に顔向けできないような気がして……」 「おの両親は、そんなこと気にしてないよ。おが倒れたら、番しむのは両親だ。

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そして何より、千尋ちゃんのおじいちゃんとおばあちゃん預かりなんだからな」 「……そうだな」 拓也は千尋ちゃんをソファーにそっと寝かせ、震える指でスマートフォンをに取った。 縮ダイヤルを押す。受話からコール音が響く、拓也は息を詰めていた。 ツー……ツー……ガチャリ。 『はい、塚本です』 受話器の向こうから聞こえてきたのは、し掠れた、しかし聞き慣れた拓也の母親の声だった。背からは微かに朝のニュース番組の音声が聞こえている。 拓也の喉が度さくいた。声がかかり、詰まり、そして絞りすように言葉が零れ落ちた。 「……母さん。拓也だ」 受話の向こうで、ハッと息を呑む気配がした。 『拓也……!? あんた、どうしたの? こんな朝くに……千尋ちゃんに何かあったの!?』 母親の声は瞬でずり、狼狽と切迫が話線を越えて伝わってきた。息子の頑なな沈黙をヶ耐え忍んできた母親の、張り裂けそうな配がそこにあった。 「違うんだ、母さん。千尋は……千尋は元気だ。今、ミルクをんで寝てるところだ」 『そう……よかった……。じゃあ、あんた、体は丈夫なの? ちゃんとご飯べてるの?』 次々と投げかけられる慈の言葉に、拓也の唇が震えた。 彼はスマートフォンをく握りしめ、溢れそうになる涙をこらえながら、これまでので度も言えなかった言葉を、まっすぐににした。

「母さん……助けてほしいんだ」 受話器の向こうが、完全に静まり返った。

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