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"午前二時の着信と百枚の遺言" 第10話

私は自分のマグカップを両で包み、温もりを確かめながら言った。 「おは、で必に戦ってたんだ。真由さんを失ったしみに呑み込まれないように、千尋ちゃんをなせないように、毎必で踏ん張ってた。ただ、荷物がすぎたんだよ。で持てるさじゃなかったんだ」 拓也はトーストを握りしめたまま、嗚咽を漏らした。 「……怖かったんだよ、俊介」 男が、連れ添った親友に、の底の澱をすべて吐きすように語り始めた。 「夜になるとさ……部が静まり返るだろ。千尋が寝息をてて、計の針の音だけがカチカチ鳴ってると……世界に、俺とこの子だけが取り残されたみたいな気がしてくるんだ。もし俺が今夜、臓麻痺か何かで突然んだら、この子はどうなるんだろう。誰にも気づかれずに、干からびてんじゃうんじゃないか。そうったら、眠れなくなるんだ。千尋の胸にを当てて、息をしてるか晩確かめて……朝が来ると、きててよかったって堵するのと同に、また今もが始まるのかって、絶望な疲れが押し寄せてきて……」 拓也の言葉のつひとつが、胸を締め付けた。 彼がこのヶ、どんな暗のをで歩んできたのか。誰も頼れず、音も吐けず、する妻を奪った世界をむ暇すら与えられずに、さな赤ん坊の命のみだけに押し潰されそうになっていた々。

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「頼っていいんだよ」 私は拓也の顔をまっすぐに見つめて言った。 「真由さんが言った通りだ。『疲れたら助けてって誰かに頼ってね』って、あのは全部お見通しだったんだよ。おがそうやって、で暗ので震えながら抱え込むことをってたから、あのメモを遺したんだ。頼ることは、逃げることじゃない。千尋ちゃんと緒にきていくための、番のさだ」 拓也は腕で目元を乱暴に拭い、きく息を吸い込んだ。 「……ああ。そうだな。もう、を張るのはやめる。あいつに叱られちまうもんな」 拓也は残りのトーストをしっかりと噛み締め、涙をみ込むように喉の奥へ流し込んだ。そして、目玉焼きをフォークで崩し、に運んだ。 「うまいよ、真由。ちゃんと焼けたぞ」 虚空に向かって呟かれたその声は、泣き声ではなく、どこか穏やかな祈りの響きを帯びていた。

朝をべ終え、器を片付け終えた頃、ベビーベッドの方から「ふぇ……ふぇぇん」とさな声が聞こえ始めた。 千尋ちゃんが目を覚ましたのだ。 拓也が素くちがり、ベッドの元へと駆け寄った。 「よしよし、起きたか。お腹空いたな」 抱きげられた千尋ちゃんは、まだ覚しきらない様子でさなをもごもごとかしていたが、拓也の匂いをじ取ったのか、激しく泣きすことはなかった。

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「オムツ、替えてやらないとな」 拓也がリビングの絨毯のに千尋ちゃんを寝かせ、慣れた様子でお尻拭きとしいオムツを用した。オムツのストック棚には、やはり真由さんのメモが貼られている。

『をに引っ張りすぎないでね。股関節が柔らかいから、優しく持ちげてね。おしりを拭くときは、からろへね』

「拓也、俺がを持っててやろうか」 「いや、丈夫だ。真由の教え通りにやれば、千尋も痛がらないから」 拓也はメモの言葉を反芻するように、慎に、しかし際よくオムツを替えていく。千尋ちゃんは父親の顔をじっと見つめ、さく「うー」と声を漏らした。 「よし、綺麗になった。次はミルクだな」 拓也がちがり、キッチンへと向かった。 調乳ポットの湯気が朝のに透けて揺れている。哺乳瓶にミルクをすりきりで測り入れ、湯を注ぐ。瓶を円を描くように揺らしてを溶かし、の入ったボウルに浸して温度をげる。 そして、拓也は真由さんのメモにあった通りの作をした。 調乳用の哺乳瓶を自分の頬にそっと押し当てたのだ。 「……ミルクはほっぺにあてて温かいくらい、か」 拓也は目をつむり、頬に伝わる肌の温もりを確かめた。すぎず、たすぎない、確かな温かさ。 「ちょうどいいな」 リビングに戻った拓也は、ソファーにく腰掛け、腕で千尋ちゃんのをしっかりと支えて抱き抱えた。

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