"午前二時の着信と百枚の遺言" 第7話
ページをめくる拓也の指が、刻みに震えていた。面にポタリと、たな涙の粒が落ちて染みを作った。
そして、記の最期のページ。
付は、真由さんが識を失う数、鉛を持つことすら困難だったはずの期のものだった。
そこには、全の力を絞りしていたのであろう、きく歪んだ、しかし魂の宿った力い文字で、たっただけ、こう記されていた。
『わたし幸せだったよ、ありがとう。』
言葉を失った。
これほどの過酷な運命に翻弄され、代という若さで命を奪われ、するが子と夫を残していかねばならなかった女性が、の最に遺した言葉が「幸せだった」だったのだ。
み言でもなく、運命への呪詛でもなく、ただ夫への、そしてこの世への、純粋で無垢な謝だった。
「真由……」
拓也は記を胸に押し当て、声を殺して泣いた。今度の涙は、先ほどの絶望の涙ではなかった。妻が遺してくれた計りれないに包まれ、そのに応えようとする、魂の震えだった。
「おが……幸せだったって言ってくれるなら……俺は……」
拓也は顔をげ、ベビーベッドの方へと線を向けた。
そこには、真由さんの命を継ぎ、すやすやと眠る千尋ちゃんの姿があった。
「俺は、を向かなきゃいけないな」
拓也の声に、確かな芯が戻っていた。
「真由が命をかけて遺してくれたこの子を、俺が幸せにしなきゃいけない。
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真由が『幸せだった』って言ってくれたを、俺がしみだけで終わらせちゃいけないんだ」
をうということは、きて同じ空気を吸っているときだけに叶うものではないのだと、私はその夜、く悟った。
肉体が滅び、言葉を交わすことができなくなっても、そのが遺したいは、文字となり、記憶となり、残された者ののに確実にき続ける。
はいつか必ず誰にでも訪れる。避けることのできない絶対な別れだ。
だが、そのをただの絶望やしみだけで終わらせないためには、遺されたが、そののを胸に抱きしめ、を向いてき抜くことなのだ。
真由さんが震えるで遺した百枚のメモは、ただの育児の指示ではなかった。
それは、拓也が絶望の暗ので迷わないように、元を照らし続けるための「の粒」だったのだ。そして、「誰かに頼ってね」という最の言葉は、頑なな夫のの鍵をけ、周囲のを取りってきていくための、彼女からの最の贈り物だった。
の空が、ゆっくりとみ始めていた。
カーテンの隙から差し込む朝のが、部のあちこちに貼られたメモのピンクや黄の片を、柔らかく照らししていく。
『ミルクはほっぺにあてて温かいくらいね』
『泣いたにはぬいぐるみを抱かせて』
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『疲れたら助けてって誰かに頼ってね、ごめん』
朝のので見るその文字たちは、夜のので見たときのような痛々しさを失い、まるで真由さん自がそこにって、微笑みながら語りかけているかのように温かく見えた。
ベビーベッドので、千尋ちゃんがさくじろぎをし、「あー」とらしい声を漏らした。
拓也がちがり、ベッドのそばへと歩み寄った。その取りには、もう迷いも、怯えもなかった。
抱きげられた千尋ちゃんは、父親の胸のでパチパチと目を瞬かせ、差し込む朝のに顔を輝かせた。
「おはよう、千尋」
拓也が微笑みかけた。その笑顔は、真由さんがきていた頃と同じ、いや、それ以にく、温かな父親の顔だった。
千尋ちゃんが、嬉しそうにさなを伸ばし、拓也の頬に触れた。
「お母さんがね、たくさん教えてくれたよ。おをどうやって育てればいいか、全部ここにいてある」
拓也は部のメモを見渡しながら、おしそうに言った。
「だから、丈夫だ。お父さんも、おも、じゃないからな」
私はの姿を見つめながら、静かに息を吐いた。 真由さん、あなたの遺したいは、ちゃんと届いたよ。 あなたのしたは、もうで抱え込んで泣いたりはしない。あなたがくれたメモを標にして、あなたがした娘のを引いて、歩歩、確かに歩き始めたよ。
あなたの遺したのおかげで、この部には今、笑顔が戻っている。