"午前二時の着信と百枚の遺言" 第6話
拓也の喉から、掠れた息が漏れた。
「あ……千尋……」
拓也は震えるを伸ばし、千尋ちゃんのさな体を再び自分の腕へと抱き戻した。今度は、壊れ物を恐れるようない抱き方ではなかった。胸の奥のしさをすべて注ぎ込むように、ぎゅっと、優しく、力く抱きしめた。
「嬉しいね……千尋。お父さん、ここにいるよ……もうさないからな……」
赤ん坊の柔らかな温もりが、拓也の胸のえ切った空洞を、しずつ、確かに埋めていくのが分かった。
私は拓也の隣に座り直し、その濡れた肩をもう度く抱いた。
「にはさせないよ。絶対に、にはさせない。俺もいる。おの両親も、周りのみんなもいるんだ。真由さんが遺してくれたこの子を、みんなで緒に育てよう。な?」
拓也は千尋ちゃんの柔らかなに自らの額を押し当て、何度も、何度も頷いた。
「……ああ。……ああ……!」
夜が更けていくにつれ、部の空気はしずつ落ち着きを取り戻していった。
千尋ちゃんはミルクをみ干し、真由さんのうさぎのぬいぐるみを胸に抱いたまま、ベビーベッドので穏やかな寝息をてて眠りに落ちた。
私は散らかり放題だった部を片付け、え切っていたキッチンでお湯を沸かし、濃い目の温かい緑茶をつの湯呑みに淹れてローテーブルに置いた。
拓也はテーブルのに座り、静かに息をえていた。
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その顔からは、先ほどまでの憑き物が落ちたような、痛々しい張り詰めた表が消えていた。目は赤く腫れがっていたが、瞳の奥には、確かなが戻っていた。
「……悪かったな、夜に呼びして」
湯呑みからちる湯気を見つめながら、拓也がぽつりと言った。
「馬鹿野郎。臭いこと言うな。親友だろうが」
「うん……ありがとう」
拓也はそう呟くと、テーブルの隅に置かれていた、メモが入っていたあの箱へと線を向けた。
「その箱……まだ何か入ってるのか」
私が尋ねると、拓也はし躊躇うように指先をかし、箱の底から冊のノートを取りした。
文具で売られているような、何の変哲もないハードカバーのノートだった。表の端はし擦り切れ、何度もめくられた痕跡があった。
「真由の記だ」
拓也の声は静かだった。
「入院してから、あいつが毎つけてたみたいでさ。メモと緒に、箱の底に入ってたんだ。……さっき、メモを読んだあと、どうしてもく勇気がなかったんだけど……今なら、読める気がする」
拓也はノートをき、ページをめくった。私も横から、その面を静かに見つめた。
そこには、真由さんの闘病活の々が、淡々と、しかし溢れんばかりのとともに綴られていた。
最初のページは、千尋ちゃんの妊娠が分かったのびから始まっていた。
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『検査薬に陽性のラインがた。信じられないくらい嬉しい。拓也さんに伝えたら、どんな顔をするかな』
だが、数ページむと、病気の告を受けたの記録に変わっていた。
『目のが真っ暗になった。どうして今なの。どうして私なの。この子を産みたい。絶対に産みたい。拓也さんは泣いていた。私のために泣いてくれた。私がしっかりしなきゃいけない。この子を守るためなら、どんな痛みにだって耐えられる』
ページをめくるごとに、文字はしずつ乱れていった。
抗がん剤の副作用に苦しむ々の吐。
『髪が抜け始めた。朝、枕を見るのが怖い。拓也さんが優しくを撫でてくれた。泣きそうになったけど、笑った。拓也さんのでは笑っていたい』
千尋ちゃんがまれたの記録は、震えるきな文字でかれていた。
『まれた! ちいさな女の子。千尋。私の宝物。拓也さんの宝物。きててよかった。この子に会えて、本当によかった』
そして、病状が悪化し、期がづくにつれて、記の余には夫への謝の言葉が増えていっていた。
『拓也さん、今も仕事帰りに寄ってくれた。疲れているのに、私のでは絶対に疲れた顔をしない。そういう器用なところが好きで、配。私がんだら、拓也さんはちゃんと息ができるかな。ご飯をべられるかな』
『千尋へ。
お母さんはあなたのそばにいられなくなるけれど、ずっとずっと見守っているよ。お父さんは世界で番優しいだから、お父さんのことを信じてね』