みかん小説
本棚

"午前二時の着信と百枚の遺言" 第5話

だが、拓也はその箱を今、限界ので見つけてしまったのだ。

そして、その箱の番に置かれていたであろう、ひときわきな枚の便箋が、拓也の膝元のに落ちていた。

私は震える指を伸ばし、その便箋を拾いげた。

そこには、のどのメモよりも激しく乱れ、震える跡で、こうかれていた。

『疲れたら助けてって誰かに頼ってね、ごめん』

界が瞬で滲み、文字が歪んで見えなくなった。

胸の奥を鋭利な刃物で抉られたような、烈な痛みが突きげてきた。

「ごめん」という文字。

幼いが子を残して逝かねばならない無。夫にで荷を背負わせてしまう罪悪。そして、何よりも――誰にも頼れず、でを張って潰れてしまうに違いない夫の性格を、の淵にあっても誰よりもく理解していた妻の、魂の底からの叫び。

真由さんは分かっていたのだ。拓也が「自分が父親だから」と頑なにを閉ざし、誰にも助けを求めずに、いつかで壊れてしまうことを。

だからこそ、彼女は最にこの言葉を遺したのだ。

『疲れたら助けてって誰かに頼ってね』と。

「俺……」

拓也はに額を押し当てたまま、獣のような慟哭をげた。

「俺、このメモを見て……話したんだよ……! 真由が……真由が、頼れって言ったから……! おに、話したんだ……!」

溢れる涙が、のカーペットに黒い染みを作っていく。

広告

「ごめん、真由……ごめん……! 俺、全然駄目だった……! でちゃんと育ててみせるって誓ったのに……全然平気じゃなかった……! 寂しくて……苦しくて……おがいなくて、たまらないんだよ……!」

堰を切ったように溢れす親友の叫びを、私はただ、その背をく抱きしめながら受け止めることしかできなかった。

「いいんだ、拓也。もういい」

私は拓也の震える肩を抱き、自らの目から溢れる涙を拭おうともせずに言った。

「よく話した。よく俺を呼んでくれた。頼ってくれてありがとう。……で抱え込ませて、気づいてやれなくて、本当に悪かった」

「う……あぁぁっ……!」

拓也は子どものように声を張りげて泣いた。妻をくしてからか、誰のでも流さなかった涙を、胸の奥底に溜め込み続けていた濁流のようなを、すべて吐きすように泣き続けた。

張り詰めていた鋼の糸が、完全に切れた瞬だった。

部のに、の男の泣き声と、赤ん坊の泣き声が混ざりって響いていた。

私は拓也の腕のから、激しく泣き続ける千尋ちゃんをそっと受け取った。

真由さんのメモにあった言葉が、をよぎる。

『泣いたにはぬいぐるみを抱かせて。お腹のにうさぎさんを乗せると、トントンされてるみたいで落ち着くよ』

私はちがり、散らかった部のソファーの隅に転がっていた、の垂れたいうさぎのさなぬいぐるみを拾いげた。

広告

真由さんが、千尋ちゃんのために選んだものだろう。

千尋ちゃんを腕に抱き、彼女のさなお腹のにそのぬいぐるみを優しくあてがった。そして、真由さんの指示通りに、お腹のからぬいぐるみを介して、トントン、トントンと、定のリズムで優しく叩いてやった。

「丈夫だよ、千尋ちゃん。お父さんはここにいるよ。おじさんもいるからね」

議なことが起きた。

それまでがついたように泣き叫んでいた千尋ちゃんが、ぬいぐるみの温もりとお腹への振をじたのか、ふっと泣き声をめたのだ。しゃくりげるようなさな息を何度か漏らしたあと、濡れた瞳をパチパチと瞬かせ、私の顔をじっと見つめた。

そして、たい涙に濡れた私の頬に、千尋ちゃんのさながふれるかふれないかのところで――彼女の元が、ふわりと緩んだ。

きゃ、と声にはならない息が漏れ、さな唇が弧を描いた。

笑ったのだ。

母を失い、泣き疲れていたさな命が、母の遺した恵によって、確かに微笑んだ。

「拓也、見ろ」

私は声を震わせながら、に崩れ落ちている親友の肩を揺すった。

「千尋ちゃんが……笑ったぞ。真由さんの言う通りにしたら、笑った」

拓也が、涙でぐしゃぐしゃになった顔をゆっくりとげた。充血した赤い目で、私の腕のにいるが子を見つめる。

千尋ちゃんは、父親の顔を認めると、もう度、ふにゃりとらしい笑みを零した。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: