"午前二時の着信と百枚の遺言" 第4話
部の央、敷かれたいカーペットのに、拓也が崩れ落ちるように正座し、屈みになってに額を擦りつけていた。
その両腕のには、おくるみに包まれた千尋ちゃんが抱きかかえられていた。赤ん坊は顔を真っ赤にして、息を詰まらせるように激しく泣き叫んでいる。だが、拓也はそれをあやすこともできず、ただ両肩を激しくさせ、声にならない嗚咽を漏らしながら、痙攣するように震えていた。
部のは、すさまじい惨状だった。
洗っていない哺乳瓶がシンクに積みがり、畳まれていない洗濯物のが部の隅に崩れている。散乱したオムツの袋、みかけのペットボトル、に散らばる育児。
しかし、私の目を奪い、私のをそのに縫い付けたのは、部の乱雑さではなかった。
壁だった。
具の隙だった。
の表面だった。
部のありとあらゆる所に、無数の付箋や、さなメモ用が、丁寧に、几帳面に貼り付けられていたのだ。
キッチンの調乳ポットの横。いピンクの付箋に、見覚えのある、し丸みを帯びた真由さんの文字が並んでいた。
『ミルクはほっぺにあてて温かいくらいね。千尋はいのが苦だから、しぬるめにしてあげてね』
ベビーベッドの製の柵の角。さな角いメモ用。
『泣いたにはぬいぐるみを抱かせて。
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お腹のにうさぎさんを乗せると、トントンされてるみたいで落ち着くよ』
オムツのストックが積まれた棚の面。
『おしりが赤くなったら、青いチューブのお薬をく塗ってあげてね。お呂がりはえやすいから、く着せてね』
洗濯の蓋の。
『赤ちゃんのは柔剤を使わないでね。洗剤は緑のボトルのを使ってね』
乳の調理セットの箱。
『裏ごしするときは、焦らずゆっくり。拓也さんは力がいから、網を破かないように気をつけてね』
玄関のドアの内側、靴箱の横。
『かけるときは、千尋の靴を忘れないでね。邪引いちゃうから』
部を埋め尽くす、無数の言葉たち。
それはすべて、真由さんが、自分がこの世から消えることを悟ったあとに、遺される夫と娘のために、最の力を振り絞ってき残した「標」だった。
枚や枚ではない。数枚、いや、百枚くあるかもしれないメモが、台所から、リビングから、洗面所から、この部のすべての活空にびっしりと貼られていた。
そして、そのメモの文字は――最初の数枚を除いて、どれも痛々しいほどに歪み、震えていた。
ペンを握る力すら失われ、指先が痺れ、界が霞むで、彼女がどれほどの激痛と闘いながら、どれほどの執でこの片に言葉を刻みつけたのか。インクのかすれや、途切れ途切れの跡が、にゆく母の壮絶な祈りを無言で物語っていた。
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「拓也……」
私のから漏れた声は、かすかに震えていた。
元がおぼつかないまま、私は部のへと踏みした。カーペットのに膝をつき、震える親友の背にを置いた。
拓也は顔をげなかった。ただ、胸に抱いた千尋ちゃんを落とさないよう必に抱きしめながら、擦り切れた喉から絞りすように言葉を吐きした。
「……俺、らなかったんだ」
拓也の爪が、カーペットの毛をく掻きむしった。
「真由が……こんなものをいてたなんて、今まで全然らなかったんだよ……」
「拓也……」
「今、千尋が夕方からずっと泣き止まなくて……ミルクをませても、オムツを替えても、抱っこしても、がついたように泣き叫んで……。仕事の疲れもあって、がおかしくなりそうだった。どうして泣くんだ、何がりないんだって……。真由がいないからだ、俺が父親として駄目だからだって、自分を責めて……」
拓也の背が、激しいしゃくりげとともにねた。
「それで……戸棚の奥から千尋の体温計を探そうとして、引きしを引っ掻き回してたら……この箱がてきたんだ」
拓也の線の先、リビングのローテーブルのに、見慣れないさな箱が置かれていた。蓋はけ放たれ、からはみすようにして、輪ゴムで束ねられた付箋やメモ用の束が散らばっていた。
真由さんは、自分がんだあと、拓也が気に見て絶望しないように、あるいは必なときにしずつ見つけられるように、箱のにまとめて遺していたのだろう。