"遺品を捨てられた妻✕翌朝土下座する義母" 第11話
「さ、詐取だと……!? ふざけるな! 夫婦のの貸し借りだろ!」
「虚偽の病名と医療費を理由として銭を交付させた為は、らかな法為です。さらに、現抱えておられる約百万円の買掛債務についても、注先の松井氏より状況を確認しております」
松井さんの名がた瞬、夫の膝がガクリと折れかけた。 ソファーの背もたれにをつき、必に体を支えている。
隠し通せるとっていたすべての欺瞞が、のに引きずりされていた。
「これ以、奥様に産の処分をされるようであれば、会社の主取引先および融関に対し、債務の正処理と係争の事実を通せざるを得なくなります」
宮本先の言葉は、鳴り声よりも遥かにく、徹な鉄槌となって夫のに振りろされた。
「……お、本気なのか?」
夫が、信じられないものを見るような目で私を見つめた。 声が震えていた。
「婚するぞ……! こんなことして、ただで済むとうのか!? まれてくる子どもから父親を奪う気か!?」
最の札だった。 これまで私が決して放せなかった、「子どもにとっての父親」「世体の良い庭」という質。 この男は、それを盾に取れば私が屈すると、今この瞬まで信じ込んでいたのだ。
お腹のの命が、ポコっと静かにいた。
迷いは、滴も残っていなかった。
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「婚で結構です」
私は夫の目をまっすぐに見据え、淀みなく言い放った。
「むしろ、こちらからお願いしたいです。母の命をに変えようとするを、子どもの父親と呼ぶ気はありません」
夫のが半きになり、喉からヒュウ、と空気が抜けるような音が漏れた。
元から崩れ落ちるように、夫は絨毯のに膝をついた。 肩が刻みに震え、両でを抱え込む。
座をして許しを請う気力すら、もうこの男には残っていなかった。 積みげてきた嘘と見栄のみに耐えきれず、ただ自滅していったのだ。
そのの続きは、淡々と、しかし容赦なくんだ。
宮本先の仲介のもと、協議婚のが作成された。 夫の会社は、週の支払いに耐えきれず、事実の破綻状態となって民事再と清算の続きへと入った。 あの、母のを売ってに入るはずだった千百万円というは、泡のように消えった。
義母は、騙し取った百万円について、自のとわずかな預から々万円ずつを真由へと返済するという公正証にサインした。 息子に捨てられ、親族からも縁を切られた義母が、これから先のい余を、その返済という鎖に縛られてきていくことになる。
私はあのえ切ったマンションを引き払い、すべての荷物をまとめて、母の実へと戻った。
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季節が巡り、枯らしが吹き抜ける初の午。
私は無事に、千グラムを超える元気な女の子を産した。
産院のベッドので、さく温かい命を抱きしめた、止まっていた涙が度に溢れた。 しみの涙ではなかった。 守り切ったのだという、確かな実の涙だった。
退院してヶが過ぎた、よくれたの午。 ベビーベッドで穏やかな寝息をてる娘の顔を見届け、私はの押し入れをけた。
奥から取りしたのは、あの錆びついたビスケット缶だった。
赤茶のを払い、蓋をける。 には、宮本先から返却された母の納帳が、静かに収まっていた。
何気なく、納帳の最のページをめくっただった。 裏表のとのに、い便箋が枚、さく折り畳まれて挟み込まれているのが見えた。
母の、の直の跡だった。 点滴の針の跡が痛むのか、文字の線は細く、震えていた。
『真由へ。
あなたがこのノートを読んでいるということは、 私はもう、あなたの隣にいてあげられないのね。
拓也さんから頼まれたおのこと、 どうしても胸のざわつきが消えません。 真由、あなたは子どもの頃から、 周りの顔ばかりを気にして、 自分がすれば丸く収まるとい込んでしまう子でした。
だから、お母さんは怖かったのです。 あなたが、族という形を守るために、 自分のや、まれてくる子どもの未来まで 犠牲にしてしまうのではないかと。
このノートと受領を残します。 もし、私のい過ごしなら、笑って捨ててちょうだい。 でも、もしあの子たちが、あなたを追い詰めているのなら、 どうか戦うことを恐れないで。
族だから許さなきゃいけないなんて、 そんな嘘を信じてはいけません。
あなたには、自分のを選ぶ資格があるのよ。』
文字が、涙で滲んで読めなくなった。
母は、復讐のためにあの缶を遺したのではなかった。 悪を罠にかけるためでもなかった。
ただ、いつでもを選んでしまう器用な娘に、 「理尽を拒絶する勇気」を、最に渡してくれたのだ。
私は便箋を胸に抱きしめ、く、く息を吸い込んだ。
の障子越しに、柔らかいの差しが畳を温めている。 母が入れしていた庭の々が、に揺れてサラサラと優しい音をてていた。
隣の部から、娘のさなくしゃみが聞こえた。
私は涙を拭い、顔をげた。
母が遺してくれたあの古いは、売らなかった。 けれど、母が本当に私に残し、守ってくれたものは、あのなんかではなかったのだ。