みかん小説
本棚

"夫の死を告げられた夜、届いた私の熟睡写真" 第16話

「せ! 俺は被害者だ! 兄貴に騙されたんだ! 由紀! 由紀、頼むから警察に言ってくれ! 俺たちは夫婦だろうが! 由紀――!」

引きずられていく夫の姿を、私はただ、微だにせず見つめていた。 の奥で響く絶叫も、もう私の皮膚を震わせることはなかった。

に崩れ落ちた義母が、私の首にすがりつこうとを伸ばしてきた。 「由紀さん……お願い、助けて……川が、あの子たちが……」

私はそのを、たく、静かに跨ぎ越した。

「失礼します」

礼を残し、私は斎のへと歩きした。 背で親族たちの号と義母の泣き叫ぶ声が響いていたが、度も振り返ることはなかった。

の青空が、く広がっていた。 たい気をく吸い込むと、肺の底に溜まっていた菊の匂いが、綺麗に消えていくのをじた。

斎ののに、本咲良さんがっていた。 喪姿の咲良さんは、私の姿を認めると、く、くをげた。 涙で濡れたその瞳には、半背負い続けてきた荷から、ようやく解放されたが宿っていた。

私たちは言葉を交わさなかった。 ただ、互いにさく頷きい、それぞれの方向へ歩きした。

それから、ヶが過ぎた。

事件は連、ニュースで報じられた。 医療器メーカーによる悪質な隠蔽作、違法な劇物の保管、そして杜撰な全管理。 正彦と直は起訴され、会社は倒産した。

広告

義母がんでいた実も、損害賠償と差し押さえのために売却されたと、弁護士からの報告にかれていた。

私は直との婚続きを、弁護士を通じて淡々とめた。 の婚姻関係は、数枚の公な面となって、法に完全に消滅した。

しく借りたのは、郊にある築のさなワンルームマンションだった。 余計な具は何もない。 い壁、清潔なフローリング、さなテーブルと子が脚。

夜の。 お呂からがり、温かい湯をマグカップに注いでベッドの横に置いた。

ベッドサイドの製チェストのには、さな読灯がつあるだけだ。 急速充器も、デジタルの計表示も、そこにはない。

スマートフォンをに取り、写真のフォルダをく。 あの、午317分に送られてきた、私が熟している写真。

画面を見つめる。 写真のの私は、本当に無防備で、何もらず、穏やかな顔をして眠っていた。

あの、私は恐怖に震えた。 誰かが部に入ってきたのだと、夫がの淵から警告してくれたのだと、本気で信じていた。

けれど、本当は違った。 あの写真は、連れ添った夫が、私を「便利な庫」として、そして「いざとなれば差しす代わり」として見ろしていた、徹なレンズの記録だった。

私はゴミ箱のアイコンをタップした。

広告

『この写真を完全に削除しますか?』 躊躇することなく、『削除』を押した。

画面から、あの暗い寝の画像が消えった。

その、画面のに、見らぬ番号からのショートメッセージの通がポップアップした。 拘置所の弁護士を通じて送られてきたのだろう、い文章。

『すまない。本当に、おを守りたかったんだ』

私はその文字を数秒だけ見つめた。 りも、しみも、憐れみすら湧いてこなかった。 ただ、見らぬの迷惑メールを見るような覚で、その番号を着信拒否にし、メッセージを消した。

スマートフォンをテーブルのに置き、画面を伏せる。

ベッドに入り、毛布を引きげた。 読灯のスイッチを切ると、部はよいに包まれた。

どこからも、私を見つめるレンズはない。 部ので、鍵が回る音も度としない。

私は目を閉じた。 ぶりに、自分の呼吸の音だけを聞きながら、私はく、静かな眠りへと沈んでいった。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: