"父親欄の黒い斜線" 第1話
【01】「娘は当然、俺たち側のだから」
「それでは、がのしい族に乾杯!」
料亭の個に、ビールグラスがぶつかりう鈍い音が響いた。
夫の拓也が誇らしげに胸を張り、集まった義父母や親戚たちを見渡している。
のの番目つ所には、義母が注文したというな檜の命名札がてかけられていた。
そこには太い毛体で、夫のの姓と、ヶを迎えた娘・陽菜(ひな)の名が刻まれている。
「いやあ、拓也にそっくりだ。やっぱりうちの血筋だな」
「お義父さん、そうでしょう? 陽菜は当然、俺たち側のですから」
拓也は満面の笑みでビールを喉に流し込んだ。
親戚たちが「いい父親になるぞ」「頼もしいな」と々に囃してる。
私の腕ので、陽菜がびくっとさくを震わせた。
まだヶ。首も据わっていない、頼りないほど柔らかい体だ。
抱き直そうとした瞬、会切の傷と、眠で鉛のようにい腰に鋭い痛みがる。
このヶ、私の最眠はだった。
授乳、おむつ替え、抱っこ、吐き戻しの処理。
胸は張り裂けそうに痛み、の内側には母乳パッドが常に張り付いている。
「美咲さん、そんなところで突っってないで、お酌くらいしなさいよ」
義母がえた烏龍茶の瓶を顎でしゃくった。
「男のたちは仕事の話で疲れてるんだから。
広告
子どもの顔を見せるのがあなたの役目でしょ」
「……すみません、今、し腕が痛くて」
「げさねえ。子ども産んだくらいで。昔の母親はみんなそうやって耐えてきたのよ。それに、拓也がでしっかり稼いでくれてるから、あなたもこうやって個で贅沢な宴席をいてもらえるんじゃないの」
拓也はその会話をに挟みながらも、スマートフォンに目を落として同僚からのメッセージに返信していた。
私に線を向けることすらしない。
陽菜がさくぐずり始めた。
拓也の叔母が「あら、パパが抱っこしてあげたら?」と声をかけた。
拓也は瞬だけ面倒くさそうな顔をしたが、親戚たちの線が集まっていることに気づくと、わざとらしく両を広げた。
「おいで、陽菜。パパだよー」
スマホを畳のに置き、ぎこちないつきで陽菜を抱きげる。
そしてすぐに叔母のほうへ向き直り、写真を撮らせた。
「いだろ? 俺、毎仕事が終わったらく会いたくてたまらないんだよ」
からまかせだった。
平の夜、拓也が陽菜の顔を見るのは、陽菜が運良く静かに眠っている数分だけだ。
それ以は「もいから」と寝のドアを閉め、栓をして別の部で寝ている。
案の定、陽菜ががついたように泣きした。
抱き方が自然で、首が定していないからだ。
「うわ、泣いた。美咲、ほら、おっぱいじゃないの? く代わってよ」
拓也は眉をひそめ、陽菜をまるで厄介な荷物のように私の腕へと押し戻した。
抱いていたは、分にも満たなかった。
泣き止まない娘をあやしながら、私は元に置いていたきなトートバッグのファスナーにをかけた。
には、このヶ、私がで集め、記入し、役所や病院の窓を回って完成させた類の束が入っている。
「拓也さん」
私は静かに声をかけた。
「ちょっと、見てほしいものがあるの」