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"認知症の父がベッド裏に隠したノート" 第18話

実から父のの回りの品をまとめた私は、幹線で駆けつけてくれた夫の悠也と流し、病へと駆け込んだ。

点滴を打たれ、酸素マスクをされた父のベッドサイドで、私は警察から返却されたあの記のノートを胸に抱きしめながら、泣き疲れて眠る父の細いを握りしめ続けた。 認症の老がいた記が、法な証拠としてどこまで認められるのかというは当初あった。だが、押収された量の眠薬の成分鑑定、父の体内から検された濃度の薬物反応、そして何より主治医と護師の茜による「族による自然な受診と虐待の兆候」に関する詳細な証言が決定打となり、母と姉たちの悪質な計画犯は完全に証され、は裁判を経てい実刑判決を受けることとなったのだった。

それから数ヶのが流れた。

京の警察病院で集な治療とリハビリを受けた父は、奇跡に命の危を脱し、の気配が濃くなった頃、私のむ神戸の病院へと正式に転院を果たした。 そして、退院の目処がった初、私の自宅から歩いて分ほどの閑静な宅にしく設された、数制のグループホームへと入居することが決まったのだ。

過酷な虐待とネグレクトから解放され、栄養状態が劇に改善したことで、父の体能は見違えるほどに回復した。

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もちろん、度失われた脳の神経細胞が完全に元通りになるわけではなく、私の顔を見ても「どちら様でしたかね」と微笑むようなの方が圧倒にかった。 けれど、かつて坂を転げ落ちるようだった認症のスピードは、専スタッフのいケアと、私や孫たちが毎のように顔をす温かい環境ので、驚くほど穏やかに、緩やかなペースへと落ち着きを取り戻していた。

初の爽やかなが吹き抜ける、ある穏やかな曜の午。 私は、裁判の証拠品としての役目を終え、警察から正式に返却されたあの冊の学ノートを鞄に入れ、歩いて父のいるグループホームを訪ねた。

施設のるい談話の窓際で、子に座った父が、庭に咲く鮮やかな陽のを穏やかな目で見つめていた。

「お父さん、こんにちは」

私が声をかけると、父はゆっくりと首を巡らせ、シワの刻まれた顔を綻ばせて「やあ、いらっしゃい」と微笑んでくれた。

「お父さん、これね、警察から返してもらったのよ」

私は鞄からあのノートを取りし、父の膝のにそっと乗せた。

「お父さんが命がけでこの記を残してくれたおかげでね、私たちはこうして、神戸の空ので、こんなにくで緒に暮らせるようになったんだよ。本当に、ありがとうね」

私が語りかけると、父は節くれだった両でおしそうにノートの表を撫でた。

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だが、った指先がおぼつかなかったのか、ノートはツルリと滑り落ち、パサリと音をててリノリウムののに落ちてしまった。

「あ、ごめんね。私の渡し方が悪かったね」

私が苦笑いしながらをかがめ、落ちたノートを拾いげようとした、その瞬だった。

に落ちた衝撃で、ノートの背表の裏側――の見返しのい部分が、ペラリと捲れがっていた。 そして、そのいの真んに、黒い油性マジックの太い線で、何かがかれているのが私の目にび込んできたのだ。

震えるで乱暴に殴りきされたような、酷く崩れた、々しい跡。 だが、それは違いなく、かつて父が渾の力を振り絞って、残された最の理性を総員してき記した、判別能な文字だった。

『菜 助けてくれて ありがとう』

そのい、けれど魂の底から絞りされたような文字を目にした瞬、私の胸の奥で何かが激しく弾けんだ。 堪えようとした涙は濁流となって溢れし、私はノートを胸に抱きしめたまま、そののリノリウムのに膝から崩れ落ちて号泣していた。

「お父さん……! お父さん……っ!」

声にならない嗚咽を漏らして泣きじゃくる私ののに、温かい、懐かしいみがそっと乗せられた。 見げると、子のからを乗りした父が、涙で濡れた私の髪を、あの子供の頃と全く同じ優しいつきで、何度も、何度も、慈しむように撫でてくれていた。

窓のでは、瀬戸内からのよい初のが吹き抜け、青々とした々の葉を優しく揺らしていた。 失われた記憶の彼方から届いた父の確かなを胸に抱きしめながら、私は父のを握りしめ、溢れる涙ので、ただ静かに微笑み返していたのだった。

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