"認知症の父がベッド裏に隠したノート" 第16話
『変申し訳ございません! たった今、の入居希望者様からお話が入りまして、先週から仮押さえされていた最のの本契約の続きが、システムで成してしまいました! タッチの差で満となってしまい、本はご案内できなくなってしまいました!』
平に謝罪する本さんに対し、母と姉たちは鬼のような形相で激し、施設に響き渡るような罵声を浴びせかけた。 そして、見学を終えて実へと戻るタクシーの内でも、そのりの矛先はすべて私へと向けられたのだった。
「信じられないわ! あんたがいつまでもトロトロとトイレなんかに籠もっているから、のに部を横取りされたんじゃないのよ! この役たず!」
織と絵里が角に泡をばして私を罵り続ける横で、私は無言のまま俯き、膝ののバッグをく握りしめていた。 彼女たちの罵声など、もはや私のには届いていなかった。私のは、今夜決すべき、命がけの作戦のことで張り詰めていたからだ。
計の針が夜のを回った頃。 階の寝から響いていた母と姉たちの規則正しい寝息を確認した私は、暗のでを起こし、音をてずに布団を抜けした。
素のまま、え切った廊を忍びでむ。 目指すのは、リビングとキッチンだ。
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何を探すべきなのか、具体な形は分からなかった。けれど、母たちが父を衰させるために使っていた何らかのかぬ証拠が、必ずこののどこかに潜んでいるはずだという直があった。
かりだけを頼りに、キッチンの器棚の引きしを静かにけ、閉める。 乾物のストック、古い調料の瓶、買い置きのラップ。探りで棚の奥をまさぐっていた私の指先が、ガサリと音をてる薬局の袋に触れた。 引きしの最部から引っ張りしたその袋のをにかざした瞬、私の背筋にたい氷が注ぎ込まれた。
そこには、母の美津子と姉の織の名がそれぞれ印字された、複数の処方箋薬の袋が入っていた。 そして、その袋のには、シートから粒もプチプチと押しされた形跡のない、未封の力な眠導入剤の錠剤が、何錠、何百錠という異常な量で溜め込まれていたのだ。
自分たちがむためではなく、処方させて溜め込み、父の事やみ物に密かに混入させていた証拠――!
胃の奥がせりがるような烈な悪寒を覚えながら、私はその薬袋をしっかりと握りしめ、に父の眠る畳のへと滑り込んだ。 の隅に置かれた介護ベッドの横にしゃがみ込み、暗い豆球のかりを頼りに、ベッドサイドの引きしやタンスのを無で捜索し始めた。
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だが、埃をかぶった古いアルバムや類ばかりで、決定なものは何も見つからない。当て所のない暗のでの捜索に、私の焦燥は限界に達しつつあった。
そのだった。
「……ん……っ」
ベッドのから、微かな掠れた呻き声が漏れた。 ハッと息を呑んで顔をげると、掛け布団のから、うっすらと目をけた父の顔が見えた。暗がりので、父の瞳が真っ直ぐに私を捉えている。
「ごめん……起こしちゃった? お父さん、菜だよ」
私がベッドの柵に顔を寄せて囁くと、父のこけた頬に、ツーと筋の涙が伝い落ちた。 そして、震える唇をき、消え入りそうな声でこう呟いたのだ。
「……菜。……菜。会いたかったよ……」
覚している――! 父の識が、奇跡のように澄み渡っていることを確信した私は、父の骨ばったを両で包み込み、必のいで元へ囁きかけた。
「お父さん、私、お父さんを助けに来たの。神戸へ連れて帰りたいの。……何か、あのたちを告発するための、証拠になるようなものはない!?」
私の切迫した問いかけを聞いた父は、言葉を返す代わりに、掛け布団から力なく伸びたで、自分が寝ている介護ベッドの製の枠を、トントンと規則に叩いてみせた。
「……え? ベッド?」
私が聞き返すと、父は々しく、けれど執拗に、ベッドのマットレスの端をトントン、トントンと叩き続けた。
私は息を潜め、ベッドのの埃っぽい板を覗き込んだ。