"認知症の父がベッド裏に隠したノート" 第14話
介護疲れのせいなのか、それとも元々の本性が剥きしになったのか、姉たちの言葉の棘は以にも増して鋭く、毒々しいものになっていた。 私はりで震える拳を握りしめ、子のさまで腰を落として、父の顔を覗き込んだ。
「……お父さん。お父さんは、このお部、気に入った?」
父は虚ろな目をゆっくりと瞬かせ、焦点の定まらない瞳で私を見つめると、壊れた形のように力なく微笑んだ。
「はい、はい……いいですねぇ。……あなたは、どちら様でしたかねぇ?」
その言葉に、絵里がで嘲笑った。 「ほら見なさいよ! 完全にボケてんだから、本のなんてあるわけないじゃない! どこに入れたって緒よ!」
見学を案内してくれていた施設の女性スタッフが、困惑したように私たち族の醜いやり取りをおどおどと見比べている。その線に気づいているのは、このので私だけのようだった。 私はちがると、く溜め息をつき、案内スタッフに向かってをげた。
「……すみません、しお洗いを借りてもよろしいでしょうか」
「あ、はい、もちろんですよ。廊を突き当たってにございます」
私は母たちの騒がしい声を背に残し、逃げるようにしてその個をにした。
廊を歩き、トイレの個に入って鍵をかける。 狭い空ので便座の蓋のに腰をろし、私は両で顔を覆った。
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父に専な介護が必なレベルに達していることは、もはや疑いようのない現実だった。施設に入所させて、母や姉たちの虐待な線から物理に距を置くこと自体は、決して悪い選択ではないはずだ。勢のスタッフの目がある所であれば、変な事故に見せかけた危害を加えることも難しくなるだろう。
けれど――本当に、この施設でいいのだろうか。 いっそのこと、私が父を神戸へと連れ帰り、がのくの施設に預けて、毎私が顔をして世話に通うべきなのではないか。 そのい衝が、この施設での契約へのサインをく躊躇わせていた。
だが、私には神戸に守るべき族がいる。 男の雅は受験、次男の智も学受験を控え、ともあと数ヶでのきな正を迎える受験なのだ。男の輝だって、まだまだがかかる甘え盛りの学だ。パートタイマーとして働きながら、の息子の母親業をこなし、そので介護状態の父のケアまでに引き受けることなど、物理に私のキャパシティを超えているのではないか。
答えのない葛藤にを抱え、胸が張り裂けそうになっていた、まさにそのだった。
ピロリン――。
静まり返った個のに、突如として音量でスマートフォンの着信音が鳴り響いた。
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臓がびねるほどの衝撃を受けながら、私は慌ててポケットから端末を取りした。画面には、茜からのLINEの通が表示されていた。昨夜、京駅に着いた直に「、母たちと施設の見学にってくる」とメッセージを送っていたことへの返信だった。
画面をタップすると、茜からの緊迫したメッセージが目にび込んできた。
『菜、お疲れ様! ちょうど私も話しなきゃとってたの! LINEにいてあった見学先の施設、私よくってるよ。りいのケアマネジャーさんが勤めてるから、杜若さんのことを頼んでおけば気にかけてもらえるとう。……でもね、菜。私はやっぱり、お父さんを神戸に連れてくべきだとうの。実はね、病院でとんでもないことが分かって――』
メッセージをスクロールしようとした、その刹だった。
「杜若さん! 杜若さんのお嬢様、いらっしゃいますか!? すぐに来てください!」
トイレのドアを激しくノックする音とともに、先ほど案内を担当してくれていた女性スタッフの切迫した声が響き渡ったのだ。 私は臓を鷲掴みにされたような恐怖を覚え、通話アプリをく暇もなく画面を伏せると、慌てて個の鍵をけてびした。
「は、はい! 私です! どうしましたか!?」
個のドアをけると、そこには先ほどまでのおどおどした様子とは変し、血相を変えて青ざめた女性スタッフがっていた。