"認知症の父がベッド裏に隠したノート" 第11話
「俺はこれまで、器用なりに族の黒柱として、全員の活を支えてきたつもりだったんだがね……」
父はグラスを見つめたまま、涙を浮かべてさく笑った。
「しいよ。あいつらが望むように、さっさと本当に何も分からない認症になってしまった方が、俺にとっても、あいつらにとっても、みんな幸せなんじゃないかとすらえてくるんだ」
「やめてよ!」
私はたまらず、喫茶の静寂を破るようない声で叫んでいた。
「私はそんなこと望んでない! お父さんがそんなに諦めるなんて、絶対に嫌!」
取り乱す私を、父は穏やかな、けれどい決別のを湛えた瞳で見つめ返した。
「菜。昨、寝でも言ったけれどね……おはおのをきなさい。こんな腐りきった族のゴタゴタに、おが巻き込まれる筋いはないんだ。俺たちのことなんて放っておいて、神戸の温かい庭へ帰りなさい。もう、関わるんじゃない」
父の突き放すような言葉に、私の胸の奥に澱のように沈殿していた、最も暗くいが堰を切って溢れした。界が涙で激しく歪む。
「……どうして、そんなに突き放すの?」
私は震える声で、ずっと胸の奥に閉じ込めてきた言葉を吐きした。
「それは……私が、お父さんの本当の子供じゃないから? 血が繋がっていないから、そうやってみたいに突き放すの!? 私には最初から族としてのなんてないから、慮してるの!?」
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張り詰めた空気の、父の目が驚愕に見かれた。
「……お、体何を言っているんだ?」
「とぼけないでよ!」
私は止まらなくなった涙をで乱暴に拭いながら、誰にも言えなかった私のの秘密をぶちまけた。
「ってるのよ! 私がお母さんと、浮気相の男とのにできた子供だってこと! 妊娠が分かった、お母さんは浮気相と別れて、お父さんはそれを全部み込んで、私を自分の子として育ててくれたんでしょう!? ……私の顔を見るたびに、お母さんの裏切りをいして憎かったんじゃないの!? だから私だけ、族の輪から弾きそうとするんでしょう!?」
「バカなことを言うなッ!!」
父の声が、テーブルを揺らした。 あの物静かな父が、ちがりそうになるほどの気迫で私を鳴りつけたのだ。喫茶のマスターが驚いてこちらを振り返る。 父は荒い息を吐きながら、私の正面にを乗りし、私の両をそのきなで力いっぱいに握りしめた。
「何を馬鹿な妄をしているんだ! おは……菜、おはどこからどう見ても、俺のたったの切な娘だ!」
「……え?」
「血が繋がっていようがいまいが、そんなことは関係ない! おを抱きげたあの瞬から、おは俺の宝物なんだよ! だからこそ……こんな汚い沼に、おを巻き込みたくないんだ!」
父の力いの温もりと、瞳から溢れた粒の涙を見た瞬、私の胸ので以も私を苦しめ続けていた黒い呪縛が、音をてて々に砕け散った。
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父は、私を疎ましくっていたからざけようとしていたのではない。私をしているからこそ、欲な母と姉たちの魔のから、私だけでも守り抜こうとしてくれていたのだ。
「……だったら、そんなこと言わないでよ……!」
私は父のに顔を埋め、子供のように声をげて泣いた。
「私だけみたいに除け者にしないで! 私だって、お父さんのことが配なの! お父さんを助けたいの……!」
私たちはその、喫茶の片隅で、めきったコーヒーをにしてたくさんのことを話しった。幼い頃の族旅のい、病気に対する本当の恐怖、そして母たちに対する尽きない信。言葉を交わすごとに、私のに刺さっていた棘は消えり、父の瞳にも、絶望の暗のに灯るさなのような気が蘇っていくのが分かった。
私は涙を拭うと、バッグからスマートフォンを取りした。
「お父さん、今ここで、茜に話をかけてみるね」
父が静かに頷くのを見届け、私はメモにかれていた茜の番号をプッシュした。 幸いなことに、茜はちょうど昼休みの休憩だったらしく、数回のコールのですぐに通話が繋がった。
『もしもし、菜? メモ、見てくれたのね! よかった、連絡くれないかとってヒヤヒヤしてたのよ』