"認知症の父がベッド裏に隠したノート" 第8話
朝の幹線移の緊張と、病院での精神なショックがなり、実の玄関をくぐった瞬に全の関節から力が抜けるような凄まじい疲労がどっと押し寄せてきた。
「私、ちょっと横になるね……」
母にそう告げると、私は居の奥にある暗い畳のへと倒れ込み、畳のに敷かれた座布団に顔を埋めた。そのまま吸い込まれるようにい眠りへと落ちていき、気がついたにはほどのが経過していた。
障子越しに差し込む夕暮れのので目を覚ました私は、ふと自分のすぐ隣に、誰かが横たわっている気配をじて息を呑んだ。 目を凝らすと、そこには父が、いタオルケットを胸まで引きげて静かに眠っていた。 に照らされた父の横顔は、正に会ったよりもらかに痩せこけており、目元の皺がく刻み込まれていた。かつてあんなにも威厳に満ち溢れ、私にとってくて越えられない壁のようだった父が、今やこんなにもさく、壊れそうな老になってしまっている。その痛々しい姿を見つめていると、胸の奥からい涙が込みげてきて界が滲んだ。
起こしてしまっては申し訳ないとい、私は音をてないよう、そっとを起こした。父の体を跨ぐようにして畳のにをつき、襖の引にをかけた、その瞬だった。
広告
背から、掠れるような、けれど信じられないほど瞭な父のさな声が聞こえてきたのだ。
「……菜。自分のを、きなさい」
臓がねがった。 「……え?」 私は弾かれたように振り返り、暗い部の父の顔を見つめた。 だが、父は静かに目を閉じたまま、規則正しい寝息をてていた。まるで最初から何も言わなかったかのように、完璧な眠りの姿勢を保っている。 気のせいだったのだろうか。それとも、現ので漏れた独り言だったのだろうか。割り切れないいを胸に抱えたまま、私はそっと襖を閉めてリビングへと向かった。
リビングに入ると、キッチンカウンターの向こうで母がやかんにをかけていた。私の音に気づいた母が、くるりと振り返る。
「あら、起きたの? お茶でもむ?」
私がさく頷くと、母は湯呑みにいほうじ茶を注ぎ、テーブルのにコトリと置いた。そして、向かいの席に腰をろすと、値踏みするような線を私に向けながら切りしてきた。
「ねえ菜、頼んでいた介護施設のこと、ちゃんと調べてきてくれたんでしょうね?」
私は肩から提げていたバッグから、神戸でまとめてきたあのクリアファイルを取りし、卓のに静かに滑らせた。
「うん、いくつか良さそうなところをピックアップしてプリントアウトしてきたよ。
広告
……でもさ、お医者さんも言ってたじゃない。まだ体はくし、施設に入れるのは期尚だって。しばらくは自宅でデイサービスを使いながら、様子を見てもいいんじゃないの?」
私がそう提案した瞬、ソファでスマートフォンをいじっていた女の織が、ピシャリとたい声を浴びせてきた。
「あんたは関でくれてのほほんと暮らしてるから、そういう無責任なことが簡単に言えるのよ。毎毎、側で面倒を見なきゃいけないのは、こっちのなんだからね!」
織の鋭いに射すくめられ、私は言葉を詰まらせた。 確かに、実際に々の介護の負担を背負うのは京にいる母と姉たちだ。方にんでいるという負い目がある以、私にはそれ以く言い返す権利がないようにえた。
「……ごめんなさい」
私が俯いて謝ると、今度はファイルをめくっていた次女の絵里が、忌々しそうにページを叩きながら声を荒らげた。
「ちょっと菜、何よこれ! なんでこんなに実の所の施設ばっかり選んでるのよ!?」
予のりのポイントに、私は驚いて顔をげた。 「え……? そりゃあ、自宅の所の方が、何かあったにすぐ駆けつけられるし、面会にもきやすいでしょう?」
私の至極真っ当な答えに対し、絵里と織は顔を見わせると、「はあーあ」
とわざとらしくきな溜め息を吐きしてみせた。
「本当に、菜ってば何にも分かってないんだから!」