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"認知症の父がベッド裏に隠したノート" 第6話

とく返しながら、母たちの真んにつ父の顔を凝した。 父は、仕ての良いグレーのジャケットを着ていたが、私の顔を見ても驚く様子もなく、ただ穏やかな、どこか焦点の定まらない笑みを元に浮かべていた。 そして、私の目を真っ直ぐに見つめると、柔らかく、けれど信じられないほど儀な声でこう尋ねてきたのだ。

「……どちら様でしたかね?」

その言がにび込んできた瞬、私の臓がチクリと鋭く痛んだ。 覚悟はしていたはずだった。話であれほど父の異変を聞かされていたのだから、の物忘れにはじないつもりだった。けれど、実の父親から、再会の言目に「どちら様」と扱いされる衝撃は、像を絶するほど残酷に私の胸を抉り取った。 目がくなり、涙が零れそうになるのを、私は奥歯をく噛み締めて必に押し殺した。

「……お父さん、ただいま。菜だよ」

努めてるい声を作って微笑みかけると、父は「ああ……」とさく声を漏らし、皺の増えた顔を綻ばせた。

「菜か……ずいぶんときくなったねぇ。すっかり分からなかったよ」

そう言って、父はまるでまだランドセルを背負っているさな子供を慈しむかのように、節くれだったきなで私のを優しく撫でてくれた。 そのの温もりは、違いなく私のる父のものだった。

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だが、父の記憶ので、私のは体どこまで巻き戻ってしまっているのだろう。 隣につ姉の織が「丈夫?」と目で気遣わしげに図を送ってきたので、私はさく頷いてみせた。しかし、母も姉たちも父の記憶のにちゃんとしているのに、なぜか方にむ私だけが完全に抜け落ちてしまっているという現実は、私のに鉛のようにくのしかかった。 くに暮らしていて頻繁に会っていないからだ、とでは自分を納得させようとした。けれど、父が私だけを忘れてしまった理由には、もっと別の、私たちが触れてはならない族の根い暗部が横たわっているのではないか――そんなしい予が、胸の奥底で燻り続けていた。

「さあ、きましょう。もうだわ」

母の声に促され、母と姉たちが父の腕を引いて歩きす。私はその背から、歩遅れた位置を保ちながら、い取りで脳神経内科の診察へと続く廊を歩いていった。

受付窓に受診票を提して待のベンチに腰掛けると、ほとんど待つこともなく、診察のドアがき「杜若信助さん、どうぞ」と護師の声が響いた。 カウンセリングルームを兼ねた広めの診察に入ると、そこには先ほど再会した茜がカルテをえてっており、私たちを際よくパイプ子へと案内してくれた。

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私たちが着席すると、程なくしてをまとった初老の男性医師が入し、デスクのの回転子に腰をろした。

医師は元のパソコンの画面に表示された脳のMRI画像をマウスで操作しながら、静かに私たちを見据えた。

「……ご族の皆様がお揃いですね。では、検査の結果についてご説いたします。結論から申しげますと、信助さんの脳の状態、および各種認能検査のスコアから見て、認症を発症されていることは違いありません」

無質な宣告が、診察の静まり返った空気に落ちた。 父は自分のことを言われているのかどうかも理解できていない様子で、膝のに置いた自分のをぼんやりと見つめたまま、微だにしない。

「信助さんのはですね、アルツハイマー型ではなく、『脳血管性認症』と呼ばれるタイプになります。過に脳の細い血管が詰まるような、ごく軽度の脳梗塞や微血を何度か繰り返されていた痕跡が見られます。このタイプの特徴として、緩やかにするのではなく、さな脳卒が起きるたびに、階段を段ずつ転げ落ちるように急激に症状が悪化することがあるのです」

「……先、それは、治るんでしょうか?」

私がわずを乗りして尋ねると、医師は眉尻をげ、静かに首を横に振った。

「残ながら、現代の医学では、度破壊されてしまった脳の神経細胞を元通りに再させ、完治させることはできません。

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