"認知症の父がベッド裏に隠したノート" 第3話
受話器越しに伝わってくる母の興奮と恐怖は、決して作り話とはえない真に迫ったものだった。 私の胸の奥に、じわりとたいが広がっていく。 私のる父は、旧帝国学を卒業し、定まで印刷会社の技術畑で責を担ってきた典型なインテリだった。数は極端になく、楽をめったに表にさず、どのような測の事態にあっても常に静沈着に構えている、いわゆる「昭の父親」の完成形のようなだったのだ。 その父が、話の相を忘れ、切符の買い方に迷い、あまつさえペダルの位置すら分からなくなってパニックを起こすなど、俄かには信じがたい景だった。だが、もしそれが事実であるならば、事態は像以に刻であると言わざるを得なかった。
「……病院で、検査は受けたの?」
私がい声で問いかけると、母はわずかに息をえ、々しく答えた。
「きな総病院の脳神経内科で、通り詳しい検査を受けてきたわ。今はその結果待ちなのよ。それでね、その検査結果を聞くに、菜、あなたにもち会ってほしいの」
「私が?」
「ええ。なんだけど、こっちに来られないかしら? お医者様からの告内容によっては、今の介護のこととか、々と族会議をいて決めなきゃいけないでしょう」
――。
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私は台所の壁に掛けてあるカレンダーへと線をらせた。
「って……曜だよね。うーん、悠也に相談してみないとすぐには分からないけど、平だから子供たちのこともあるし……。でも、神戸のお義父さんとお義母さんが預かってくれるなら、なんとかなるかもしれない。夫が帰ってきたら相談して、また折り返し話するわ」
「そう、頼むわね。待ってるから」
話が切れると、通話から聞こえていた母の甲い声の余韻が消え、リビングには再び換気扇のい唸り声だけが残された。 ダイニングテーブルで宿題を解いていた智が、消しゴムを使うを止めて配そうに私を見げてきた。
「ママ、京のばあちゃん、何て言ってはったん?」
子供相に誤魔化しても、いずれ伝わることだろう。私は乾いた唇をき、できるだけを交えないように努めながら答えた。
「京のじいちゃんがな、ちょっと物忘れがひどくなって、の病気かもしれへんねんて。病院の検査の結果を聞くに、ママも京に来てほしいって頼まれたんよ」
「そうなんや……。ってきたらええやん。じいちゃん、配やし」
びた調でそう言ってくれる息子のを撫でながら、私は線をへと移した。 ソファの背もたれに器用に両を引っ掛け、をすれすれまで垂らして宙吊り状態になりながら、相変わらずゲームに没している輝の姿が目に入った。
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だらしなくめくれたTシャツから、丸いお腹が覗いている。
「でもなぁ……平の泊まりになるし、輝がなぁ……」
私が苦笑混じりに呟くと、智も逆さまになった弟の顔を見つめ、わずプッと吹きした。
そのの夜、仕事を終えて帰宅した悠也に、夕の片付けをしながら昼の母との話の内容をすべて打ちけた。悠也はネクタイを緩め、真剣な面持ちで私の話にを傾けてくれた、迷うことなく頷いてくれた。
「菜、それは絶対にくべきや。お父さんのそんな事な局面、ち会わんかったらで絶対に悔する。曜なら、俺も定でがれるように調するし、週末は俺の実の両親にも声をかけて伝ってもらうから、のことは何も配せんでええよ」
夫のい押しに、私の胸の荷がしだけ軽くなった。 最初は、まだのかかる学の輝だけでも京へ連れてこうかと考えた。だが、幹線の往復の内や、静粛が求められる病院の待で、あの落ち着きのない息子がおとなしく座っていられるはずもない。母や姉たちとの刻な話しいのに連れてけば、かえって周囲に余計な気を使わせ、混乱を招くだけだろう。熟考の末、私は子供たちを悠也に託し、軽な単で京することを決めたのだった。
検査結果を聞きにくまでの約週の、私は京の母と毎のように連絡を取りった。