"認知症の父がベッド裏に隠したノート" 第2話
ほら、脱いだもんは洗濯カゴに入れるんや」
弟を優しく諭しながら洗面所へと歩いていく智のろ姿を見送り、私はわず胸ので両をわせた。がにいりた神の子か何かだろうか。ので男の雅を含めた息子たちの健やかな成に謝しつつ、私は蔵庫から麦茶を取りし、学帰りののためにおやつの皿を用し始めた。
そのだった。 ソファのに放りしてあった私のスマートフォンが、規則な振とともにく唸りをげた。ディスプレイのかりが暗いリビングの隅で点滅している。
「ママ、京のばあちゃんから話やで」
洗濯カゴから戻ってきた智が、テーブルの脇を通り過ぎる際に画面の表示を目ざとく見つけて教えてくれた。 私はボウルに入ったひき肉をこねていたをの流に晒しながら、肩越しに智へと声をかけた。
「ごめん智、今ちょっとが肉汁でベタベタやねん。緑のボタン押して、代わりにてくれる? すぐ拭くから」
「うん、ええよ」
智が通話アイコンをスワイプし、さなに端末を当てて「もしもし、ばあちゃん?」と応対してくれているに、私はハンドソープを泡てて急いで両を洗い流し、清潔なタオルで気を拭い取った。智からスマートフォンを受け取り、元へ当てる。
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「お母さん、ごめんね待たせて。久しぶりだけど、どうしたの?」
受話器の向こうの相を識した瞬、先ほどまで子供たちに向けていた柔らかな関弁がすっと消え失せ、滑らかな標準語へと切り替わる。の歳ので、この言語の切り替えもすっかり無識の習慣となっていた。 受話器からは、京の町特のし甲い母・美津子の声が聞こえてきたが、いつもどこか刺々しいその声音に、妙な震えと湿っぽさが混じっていることに私はすぐに気づいた。
「……ちょっとね、お父さんのことなんだけど。最、どうにも様子がおかしくてね」
母の言葉に、私は眉を寄せた。台所の換気扇の回る音だけが、静かに朶を打つ。
「どういう? お父さん、どこか体の具でも悪いの?」
「いや、体はピンピンしてるのよ。ご飯もべるし、散歩にもくしね。そうじゃなくて……の方なのよ。認症かもしれないの」
唐突に投げかけられたあまりに吉な単語に、私の考は瞬にして止した。台所のタイルのたさが、スリッパ越しにの裏へと伝わってくるような気がした。
「……え?」
声がうまくなかった。受話器の向こうで、母が焦燥を募らせるように声を張りげる。
「ちょっと、菜? 聞こえてるの? もしもし!」
「あ……うん、ごめん。あまりに急な話だったから、びっくりしちゃって……」
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私は呼吸をして、荒れそうになる悸を必で抑え込んだ。 父・信助は、今で歳になる。 今の正、がに顔をわせたには、いつものように背筋をピンと伸ばし、居の座に座って淡々とおせち料理をに運んでいたはずだった。聞の社説を隅々まで読み、テレビのニュースにく確な批評を呟く、厳格で聡な父。ほんのヶかヶの記憶のに、おかしな兆候など何つ見当たらなかった。 も経たないうちに、がそんなにも急激に変貌してしまうことなど、本当にあるのだろうか。
「認症って……具体には、どんなじなの? 何か変なでもあったの?」
私が努めて静な声を作って尋ねると、母は待っていましたとばかりに、堰を切ったように満と嘆きを吐きし始めた。
「うーん、そうね……このなんてね、固定話で誰かと親しそうに話をしていたから、話を切ったに『誰と話してたの?』って聞いたのよ。そしたらね、さっきまであんなに楽しそうに喋っていた相の名が、どうしてもてこないって言うのよ。それから、先週でに乗ろうとしたら、急に券売の切符の買い方が分からなくなってパニックになったりね。極めつけは昨よ。お父さんの運転でスーパーへ買い物にかけたら、交差点ので急に『ブレーキがかか分からない!』って叫んでハンドルを握ったまま固まったのよ! 私、助席で寿命が縮むいをしたわよ!」