"妻の失踪から90日、誰かが場所代を払っている" 第11話
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翌朝、私は会社に休暇の連絡を入れた。 体調良を理由にした声は、嘘をつく必もないほど掠れ切っていた。
スーツには着替えず、黒のタートルネックのになコートを羽織る。 提げ鞄のには、昨夜見つけしたあのクリアファイル。 百万円の催告と、妻のきの付箋。
向かった先は、本にある『央信用庫』の本営業部だった。 催告の発元として記載されていた支だ。
午半のロビーは、直の静けさに包まれていた。 受付で類を提示し、「融資の連帯保証契約について確認したい」と告げると、案内係の女性の表が瞬で引き締まり、奥の応接ブースへと通された仕切り。
運ばれてきたぬるい緑茶にはをつけられなかった。 やがて、浅黒い肌をした代半ばの融資担当課が、分いファイルを持って入ってきた。 名刺には『融資第課 課 柿沼』とあった。
「藤井俊介様ですね。……お話ではなく、ご労いただき恐れ入ります」
柿沼課は慇懃無礼な態度でをげ、私の正面に座った。 そのは、を借りに来たを見る目ではなく、焦げ付いた債権を回収する相を値踏みする目だった。
「単刀直入に伺います」
私は提げ鞄から催告のコピーを取りし、テーブルのに滑らせた。
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「この限会社ナオキパーツの融資契約についてです。私は……この連帯保証契約を結んだ覚えがありません」
柿沼課は眉毛本かさなかった。 慣れっこだ、と言わんばかりの平然としたつきで、持参したファイルをく。
「覚えがない、とおっしゃいますと?」
「弟に騙されたんです。半、のテナント更類だと聞かされてサインを求められました。私は追加融資の連帯保証だとはらされていませんでした。これは無効です」
言い終えた瞬、柿沼課はさく息を吐いた。 憐れむような、しかし切の妥協を許さない徹ながその瞳に宿る。
「藤井様。こちらをご覧ください」
テーブルのに差しされたのは、連帯保証契約の原本のカラーコピーだった。 契約、主債務者の署名、そして保証欄。
そこには、紛れもなく私の跡で『藤井俊介』と署名されていた。 トメもハネも、私の癖そのもの。 そしてその横には、鮮やかな朱で、私の実印が押されている。
「契約当、主債務者である藤井直様がこちらの類をご持参されました。そして、こちらがその際に同に提された、藤井俊介様の印鑑登録証です」
もう枚のが提示される。 発は契約の。 区役所で発された、私の実印の証。
喉がカラカラに渇いた。
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「実印の印は、区役所に登録された印と寸分違わず致しております。さらに、ご署名もご自の跡であることに相違ございませんね?」
「……ですが、私は内容をらされていなかったんです! 騙し討ちのように委任にい形で――」
「藤井様」
柿沼課が静かに、しかし鉄の板のようにい声で私の言葉を遮った。
「失礼ながら、藤井様は企業の営業職に就かれておられる成男性です。文字が読めないわけでも、判断能力に問題があるわけでもない。類に自ら実印を押し、自ら取得した印鑑証を添付してに託した。法に見れば、これは『効な代理権の授与』または『追認』とみなされます」
指先が急速にたくなっていく。
「契約の無効を主張されるのであれば、実の弟御を相取り、印私文偽造および同使、ならびに詐欺罪で刑事告訴していただくしかありません。警察に被害届をし、裁判所で無効確認の判決を取っていただくことになります。……告訴なさいますか?」
息が詰まった。
弟を、刑事告訴する。 実の弟を、刑務所に送る。
その言葉のみに、私の喉は完全に塞がれた。 もしそんなことをすれば、母はどうなる。親族はどうなる。 私の勤める会社にれ渡れば、私のはどうなる。 何より――「族を警察に突きす」という為に対する、理なまでの忌避。
柿沼課は、私のその迷いと怯えを、完全に読み切っていた。
「なお、奥様……藤井里奈様からも、失踪される数週に同様のお問いわせをいただいておりました」