"妻の失踪から90日、誰かが場所代を払っている" 第5話
あいつはいつもそう言って笑っていたのだ。
「……直」
リビングのローテーブルを挟んで座り、缶ビールにをつけた直を見つめた。 元のグラスを持つ指が、さく震えているのを悟られないよう、膝ので拳を握りしめる。
「ん? 何?」
「お……先、千葉の方まで里奈を探しにってくれたって言ってたよな」
直が焼き鳥をに運ぼうとしたが、ほんの瞬、ピクリと止まった。 本当に、瞬きつのだ。
「千葉? ああ……言ったっけ。うん、ったよ。義姉さんの学代の友がにんでるって、に母さんから聞いたことあった気がしてさ。休みのにちょっと寄ってみたんだよ。留守だったけど」
「そうか。どこらへんまでったんだ?」
「え? だからのほうだよ。駅の周りをし歩いて、それだけ」
直はビールをごくりとみ干し、缶をテーブルに置いた。 その線が、私の首元あたりを泳ぐ。
「……千葉の、美浜区のほうにはかなかったか?」
私がそうにした瞬だった。
直の目が、カッと見かれた。 それまでの懐っこい弟の表が剥がれ落ち、何かを激しく警戒するような、鋭利なが宿った。
「……え?」
直の角が、引きつるように持ちがる。
「美浜? ……兄貴、もしかして、あの見つかったの?」
のてっぺんから、を浴びせられたような覚だった。
喉が完全に干からびた。
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臓が凍りつく。
……?
私は、があるなんて言も言っていない。 美浜区という名をにしただけだ。 駐とも、とも言っていない。
どうしてこいつは、千葉の美浜に「」があることをっている?
「……直」
自分の声が、く震えた。
「何で、があるって分かったんだ?」
空気が、瞬で凍結した。 換気扇の回る微かな音だけが、部のに鳴り響いている。
直の瞳の奥が、激しく揺れた。 喉仏がごくりとする。 だが、次の瞬、あいつはいつものような軽な笑みを顔に貼り付け、を掻いた。
「いやいや、驚かせないでよ兄貴。ってほら、レンタカーとかさ! 義姉さん、移だけじゃ限界あるだろ? だから、どっかで借りて移してんのかなって、俺が勝に像しただけだよ」
声のトーンがくなっている。 嘘をつく、直はいつもになる。 子供の頃から、何つ変わっていない癖だった。
「レンタカーって……美浜でか?」
「いやだから、例え話だって! なんだよ兄貴、怖い顔してさ。何かあったの? 千葉で何か見つけたのかよ?」
直がを乗りして、私の顔を覗き込んできた。 その瞳の奥にあるのは、純粋な配ではない。 探りだ。 私がどこまでっているのかを、必に測ろうとしている目だった。
『特に、直には絶対にらせないで。』
妻の文字が、脳内で警告音のように鳴り響く。
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「……いや。何でもない」
私は線を落とし、めた焼き鳥をつに運んだ。がしなかった。
「警察から連絡があってな。千葉の方で似た女性の目撃報があったって言われたから、気になっただけだ。結局、違いだったらしい」
「……あ、そうなんだ」
直の肩の力が、目に見えて抜けた。 ふっと堵のため息を漏らし、しい缶ビールのプルタブを引く。
「なんだよ、紛らわしいな。警察もさ、確証ないなら兄貴を振り回すなよな。……ねえ兄貴、変な報に惑わされちゃダメだよ。義姉さんはきっと、をやしたら自分で帰ってくるって」
直はそう言って、私のグラスにビールを注いだ。 泡がく盛りがっていくのを眺めながら、私の背筋には、ぬめりとした汗が流れ落ちていた。
こいつはっている。 千葉の駐にある、あのシルバーののを。 それどころか、あそこにがめられていることを、私よりも先に把握していたのだ。
*
直が帰ったのは夜を回っていた。
「兄貴、あんまり根詰めんなよ。またな」
そう言って笑顔でを振ってっていった弟の背を見送り、チェーンロックをかける。 カチャリという属音が、まるで防空壕の扉を閉めたかのようにく響いた。
眠れるはずがなかった。
私は斎のデスクに向かい、パソコンをいた。 管理の老が見せてくれた、あの検証のコピー。
所者名:『倉 昌子(おぐら まさこ)』 所:『静岡県沼津』
妻の実は静岡県島だ。