"妻の失踪から90日、誰かが場所代を払っている" 第2話
肌が粟つ。 線がれかけた区画を、番号順に歩いて探した。
125、126――そして、127。
息が止まりそうになった。
そこには、があった。 シルバーの、数の型とわれる古い産のセダン。 体全体にく埃が積もっている。だが、廃のように朽ち果てているわけではない。タイヤの空気も抜けておらず、定期に管理されていた気配がある。
ナンバープレートを見る。「静岡」。 妻の実と同じ、静岡ナンバーだった。
臓の鼓がの奥で激しく鳴り響く。 元がふらつきながら、私はそのへづいた。 運転席側の窓ガラスに顔をづけ、両でを遮りながら内を覗き込む。
部座席には、平らに折りたたまれた段ボール箱が数枚と、ドラッグストアのポリ袋。 そして、助席のシートの。
そこに見慣れた布が転がっていた。
い緑と紺の、ウールのチェック柄のマフラー。
喉からかすかな呻きが漏れた。 見違えるはずがない。 、私が会社で初めて張を命じられた際、千歳空港の売で妻のために買ったものだ。
「これ、すごくあったかい。ありがとう、俊介さん」
そう言って、妻はになるたびに入れをしながら巻いていた。毛玉取り器を丁寧に当てていた妻の横顔が、昨のことのように脳裏に蘇る。
なぜ、それがここにあるのか。 妻の私物が、なぜ、見たこともない静岡ナンバーのセダンの助席にあるのか。
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ドアノブにをかけた。引いてみる。 カチャリとたい属音が響くだけで、鍵はく閉ざされていた。
「おい、あんた。のに何してんだ」
背から突然かけられたしわがれた声に、全がねがった。
振り返ると、紺の防寒ジャンパーを着た柄な老が、懐灯を片に眉をひそめてっていた。敷の隅にあるプレハブの扉がいており、そこからてきたようだった。
「あ……す、すみません。怪しい者じゃありません」
私は慌ててポケットから財布を取りし、運転免許証を差しした。
「藤井俊介と申します。この……この127番の区画を契約している藤井里奈の、夫です」
老は怪訝そうに目を細め、私の免許証と、私が握りしめていた圧着ハガキを交互に見比べた。 老はため息をつき、ジャンパーのポケットにを突っ込んだ。
「ああ……藤井さんね。今の引き落とし、落ちなかったんだよ。通がったのか」
「はい、それでんできました。管理さんですよね? この、うちの妻が契約したんですか? いつからですか? 妻は……妻はここにいましたか?」
矢継ぎに詰め寄る私を、老は片で制した。
「落ち着きなよ。そんな気に聞かれたって困る。事務所帳簿見てやるから、に入りな」
プレハブの管理詰所は、油ストーブの灯油の匂いが充満していた。
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壁にはきの区画図と、茶く変したカレンダー。 老は老鏡を先に引っかけ、スチール机のの分いの台帳をめくった。
「ええと……127番。契約は今のだね。ちょうどかだ」
。 妻が姿を消す、週の付だった。
の芯が痺れていくような覚を覚えた。 あの、妻は何わぬ顔で私の朝を作り、ワイシャツにアイロンをかけていた。その裏で、わざわざで以もかかるこの千葉の果てまでやって来て、自分名義で駐を契約していたというのか。
「あの、は妻のものじゃないんです。静岡ナンバーで……誰のか分かりますか?」
「検証のコピーがあるよ。持ち主は……倉昌子さん。所は静岡県沼津になってる」
「倉……?」
聞いたことがない名だった。妻の親族にそんな物はいない。
「契約の、奥さんは何て言ってましたか? 誰かと緒でしたか?」
「いや、だったよ。柄で、物静かな奥さんだった。ただ……」
老は帳簿の端を爪で弾きながら、何かをいすように井を見げた。
「議なのは、契約したことじゃないんだよ」
「……どういうことですか?」
老は机の引きしをけ、冊の学ノートを取りした。表に「来客・巡回記録」とマジックでかれている。
「この契約、自引き落としだからさ、契約者本がここに来る用事なんて滅にないんだ。
だってずっと置きっぱなしだったしね。