"存在しない306号室" 第10話
両で顔を覆い、管の刺さった腕を激しく震わせる。
「違うんだ……違うんだよ……! 翌朝、警察が来るの朝、俺はもう度、階の物置を見にったんだ……!」
病の空気が、張り詰めた氷のように凍りつく。
「物置の防扉の隙から、を伸ばせば届く梁の隙に……だらけの、健太のカメラが押し込まれてるのを、見つけたんだ……」
息が止まりそうになった。
「カメラがあったなら……あの子たちが、渡り廊が落ちたもきていたって、分かったはずじゃない!」 藤原先が叫んだ。
「分かったよ! 分かったからこそ、もう戻りできなかったんだ!」 田辺は絶叫した。 「きて旧館側に渡ったんだって気づいたときには、もうにパトカーが何台も来てた! 今さら『実はあっちの廃墟のに閉じ込められてます』なんて言えるわけがなかった! 言ったら、晩救助を呼ばずに放置した俺の責任になる! 過失じゃない、見殺しにしたことになるんだよ!」
だから男は、カメラをさらに奥の井裏の隙へと押し込み、隠蔽したのだ。
あの子たちは、暗の旧館から、必のいでを伸ばし、真実を記録したカメラを本館側へ託した。 が助けに来てくれると信じて。 自分たちの声が届くと信じて。
それを、この男は、自分の保のためだけに、さらにいのへと葬りった。
「旧館の、どこですか」
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私は自分の爪がのひらにい込み、血が滲むのをじながら、静かに問い詰めた。 「旧館のどこに、逃げがあるんですか」
田辺は涙とに塗れた顔をげ、絶望に満ちた目で私を見た。
「……らねえよ。俺は旧館のなんて入ったことがない。井に聞け……井が、あの建物の構造を番よくってるはずだ……」
そのの午、私は野県警捜査課の取調のにっていた。 任同された井正彦は、県警のベテラン刑事による追及のに、完全に崩壊していた。
取り調べからてきた鑑識課の係が、私のに枚の古い青焼き図面を広げた。 井が自宅の押入れの奥から押収された、昭代の旧館増築の実測図。
「宮本さん、あなたの言っていた通りだった」 係は眉にい皺を刻みながら、図面の最部を指差した。
「旧館のには、ボイラーと配管を通すためのピット……幅・メートル、さメートルのコンクリート製共同溝がしていた。だが、この空は昭に別館を建てた際、換気基準を満たせなくなって図面から完全に抹消されていた」
「抹消……」
「自治体にも、消防にも届けのない、完全なのブラックボックスだ。の岳救助隊も、警察の捜索隊も、この空の自体をらされていなかった。
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井が図に図面を隠していたからだ」
胸の奥が、激しく波打つ。
「の夜、がっていました。砂崩れが起きたんですよね」
「そうだ。当の気象記録と質データを照した」 係の声が、沈痛なみを帯びる。 「あの夜の総量は、百ミリを超えていた。渡り廊の崩落を引き起こした砂崩れは、旧館の側斜面を直撃した。その砂が……ピットの部排気と、唯の脱を、完全に側から押し潰して塞いだんだ」
ので、の獄が組みがっていく。
渡り廊が落ち、退を断たれた。 閉じ込められていた気の男性。 は、崩壊の危険がある旧館の階から、へ脱するためにの階へとりたはずだ。 だが、階の入は崩落した砂と鉄骨で塞がれていた。 残された唯のルートは、の点検用通。 そこから本館側のへ抜けられると信じて、あるいは、別の排気からへられると信じて、暗のピットへと潜り込んだ。
けれど、そのもまた、砂崩れによって完全に埋没していたのだ。
そして――。
「……排の、逆流ですね」 私の声が、微かに震えた。 建築設備の識が、残酷なまでの正確さで結末を弾きす。
「そうだ」 係が、く頷いた。 「からの鉄砲が、詰まった排管からピット内へ逆流した。
かさは、で井くまで達したと推測される」
逃げのない、コンクリートの暗黒。 元から迫り来る、たい。