みかん小説
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"存在しない306号室" 第9話

背筋に、氷を流し込まれたような衝撃がった。

「崩落で渡り廊は落ちた。だが、は即したんじゃない。……旧館のどこかに、逃げ込んでいたんだよ」

現監督の佐藤さんが警察へ通報した瞬から、事態は崩を打ってき始めた。

翌朝、旧『馬楼』の敷は、黄の規制線テープで幾にも囲い込まれていた。 赤灯を回した野県警の鑑識両が台、濘んだ駐に並んでいる。 解体事は即座に無期限止。 、類の底に眠っていた「徒の事案」は、事件発から目にして初めて、捜査対象へと切り替わった。

規制線の側で待させられていた私のスマートフォンが震えた。 画面に表示されたのは、所沢の総病院の番号だった。

「宮本さんですか。……田辺さんが、目を覚ましました」

担当医の淡々とした声の背で、呼吸器のアラーム音が聞こえた。 「側部の骨折によるな記憶の混濁はありますが、疎通は能です。……ただ、ご本が藤原元教諭と、あなたに会いたいと」

私たちは野から取って返し、所沢へとをらせた。 空は鉛に淀み、フロントガラスの向こうで速のアスファルトが鈍くっている。

病のドアをけた瞬、漂ってきたのは消毒液と老いた皮膚の匂いだった。 部をい包帯で厳に巻かれ、ベッドので点滴の管に繋がれた田辺也は、の自信に満ちた血教師の姿からは見るもなかった。

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頬はのように痩せこけ、焦点の定まらない両目が、入ってきた私たちを捉えた途端、怯えたように見かれた。

「……藤原、先……」

ひび割れた唇から、掠れた声が漏れる。 その線が、私の顔に移った。 姉によく似た私の目元を見た瞬、男の喉から「ひっ」とい引きつけのような息が漏れた。

「田辺先」 私はベッドサイドまで歩み寄り、バッグから枚のカラーコピーを取りした。 現事務所のパソコン画面を接写した、あのハンディカムの映像の静止画。

暗の、懐灯のに照らされた、歳の姉の顔。 恐怖に顎を震わせながら、それでも真っ直ぐを見据えている、宮本織の最の姿。

「姉は、あなたを待っていました」 私の声は、く、病の壁に染み込むように響いた。 「『先がまだ戻らない』って言いながら、向こうで誰かが埋まっているかもしれないからって、あの崩れかけの鉄骨を渡ったんです」

田辺の顔から、急速に血の気が引いていく。 図のモニターの子音が、狂ったようなテンポでねがった。

「っていたんですよね」 藤原先が、ベッドの柵を両でく握りしめた。 指の関節がく浮きがっている。 「渡り廊が落ちたとき、あなたは何を見たの? あの子たちが落ちたのをりながら、どうして『夜遊びで勝に抜けした』なんて嘘をついたの!」

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「ち、違う……!」 田辺が首をに振った。包帯が擦れてカサリと音がする。 「違うんだ……落っこちて、んだとったんじゃない……!」

「じゃあ、何よ!」

「音が、したんだよ……」 田辺の両目から、粒の涙が溢れし、枕を濡らした。 「本館に戻って、をした徒に薬をませて……階の物置に戻ったときには、もう、渡り廊の真んが真っつにへし折れて、に崩れ落ちてた……」

男の呼吸が、浅く、荒くなっていく。

「を覗き込んでも、真っ暗で何も見えなかった。が砂りで、呼んでも叫んでも、底のの音しか聞こえなくて……俺は、俺はパニックになった。自分の指示で徒をあんな危険な所にかせたのがバレたら、懲戒免職どころじゃない。警察に捕まる、が終わるって……!」

「それで、見捨てたのね」 私の指先が、たく凍りついていく。

「探そうとしたんだ! だが、旧館へくが完全に消えてたんだよ! 井の野郎も青ざめて、『旧館の違法事がバレたら宿が潰れる』って喚きして……で裏をわせた。最初から徒たちが勝に部を抜けして、宿のへ遊びにったことにしようって……!」

「……メール」 私は男の胸元を睨みつけた。 「未送信のメールに、何ていてあったか覚えていますか。『あの夜、俺が緒にくべきだった』」

田辺が、獣のような嗚咽を漏らし始めた。

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