みかん小説
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"存在しない306号室" 第8話

「見るかい。……俺たちも、これを見て言葉を失ったんだ」

画面がクリックされた。

青いノイズがり、激しいの音と音がスピーカーから漏れす。 画面が激しく揺れる。 映しされたのは、コンクリート打ち放しの狭い空。 懐灯のが乱反射し、モップの柄と洗剤のポリタンクが映る。

306号のだった。

画面の端に、制姿の徒たちの姿が映り込む。 田理奈が腕を組んで寒そうに震えている。 林悠斗が、スマートフォンの画面を見つめながら「圏だ、ここ」と呟いている。

そして、カメラのに、姉の顔が横切った。

織。

歳の、記憶のとまったく同じ、真面目で、し神経質そうに眉を寄せた姉の顔。

『……健太、もう撮らなくていいから』 姉の声だった。 、のでしか聞けなかった、あのしくて落ち着いた声。 『田辺先、遅いね。もう分経ってる』

『でもさ、織』 カメラを構えている健太の声が入る。息ががっている。 『さっきの窓、やっぱり絶対におかしかったって。ほら、もう回見てみろよ』

カメラが、け放たれた防扉の向こう――暗のの旧館へと向けられた。

脚がまる、ブレを補正しながらズームが効いていく。 旧館の階。 割れた窓ガラスの奥、完全な暗黒のに、微かないが点滅していた。

懐灯のだった。 規則な点滅ではない。

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激しく、々しく、と井を交互に叩くようなの軌跡。

コン、コン、コン。

音に混ざって、鈍い属の衝突音がマイクに拾われていた。 配管を、い具で叩く音。

『……嘘だろ』 林悠斗の声が、震えながら割り込む。 『に、いるぞ。閉じ込められてるんじゃないか?』

『田辺先を呼びにこう』 姉の切迫した声。 『私、本館に戻る。先に言って、旅館のを――』

その瞬だった。

画面の奥で、ドォン、という鈍い鳴りのような音が響いた。 カメラがきくねがる。

『うわっ!?』 『何、今の!?』

旧館の元。の斜面から砂が滑り落ちるような轟音。 渡り廊の鉄骨が、ギィ、と鳴をげるのが聞こえた。

画面が再び、旧館の窓を捉える。 点滅していたが、激しく揺れ、窓枠の向こうで倒れるようにして消えかかった。 そして、かすかにマイクが拾った、男の絶叫。

『だれか……! あけてくれ……!』

カメラの向きが変わり、の顔がのに浮かびがった。 悠斗が防扉の枠を掴んでいる。 理奈が顔をで覆っている。

そして、姉――宮本織が、リュックの肩紐をく握りしめ、濡れた瞳で真っ直ぐにを見つめていた。

『……先、まだ戻らないよ』

姉の声は、震えていた。 恐怖で、顎が刻みにガチガチと鳴っていた。 それでも、その瞳には、私がよくっている、あの頑固なまでの責任が宿っていた。

『でも、あれ……が埋まってるんじゃないの? かなきゃ。

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あそこまでって、声をかけるだけでも――』

『織、危ないって!』 『渡り廊のまで! のドアがくか確認するだけ! 健太、かり貸して!』

の音が、濡れた鉄骨を踏み鳴らしてざかっていく。 カメラがに置かれたのか、レンズはを向き、に濡れる夜空と、グラグラと揺れる渡り廊の骨組みだけを映ししていた。

そして、秒。

バリバリバリッ、という、鉄骨が引きちぎれるような破壊音が響き渡った。

『キャアアアアッ!』 理奈のい鳴。 続いて、砂が崩落する轟音。

画面が激しく砂嵐を吹きげ、映像はそこで完全に途切れた。

プレハブの蛍灯ので、私は両で顔を覆った。 涙はなかった。 ただ、喉の奥から、焼きつくようない息が溢れて、止まらなかった。

勝な夜遊びなどではなかった。 集団の逃避などではなかった。

あの子たちは、が放置した暗ので、見らぬ誰かの叫び声を聞き、助けようとして――。

「……宮本さん」 佐藤が、苦しい声でをいた。 「このカメラの発見所、井裏の配管スペースだったと言ったろ」

私は顔をげた。

「なぜ、カメラが階の井裏にあったといますか」

佐藤の目が、鋭く、そして痛ましそうに私を射抜いた。

「このカメラ、から投げ込まれたんじゃない。……渡り廊が崩落したあと、誰かが旧館側から隙にを伸ばして、必になって本館の井裏に押し込んだ形跡があるんだ」

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