"存在しない306号室" 第6話
ゆっくりといた扉の奥で、井はさく項垂れていた。
畳の居には、酒の匂いと煙の煙が澱んでいた。 コタツのに、私が持参した枚の部割り表を広げる。 徒用の表と、306と記された内部管理用の表。
井は震える指で煙にをつけ、煙を吐きしながら吐き捨てるように言った。
「……らなかったんだよ、あんなことになるなんて」
「何があったんですか。あの夜」 藤原先が、すがるようにを乗りす。
「だ」 井は皿を見つめたまま、く呟いた。 「夕が終わってすぐ、過ぎだった。本館のブレーカーが部落ちた。したことじゃねえ、客の気はすぐに復旧した。だが、旧館の配盤がイカれてた。……あのは、旧館の解体準備のために、注の気が入ってたんだ」
「気……?」
「代の、元の親方だ。配線を抜き取る作業を頼んでた。だが、のあと、そいつがいつまで経っても事務所に戻ってこねえ。携帯も繋がらねえ。のだから波が届かねえ所もい」
井の語る内容が、私ののでパズルのピースと噛みっていく。
「それで、どうしたんですか」
「俺は従業員に探させようとした。だが、当の引率の副担任……田辺とか言ったな。あの男がフロントに来て、事を聞きつけたんだ。徒が騒ぎすと困る、自分が伝うって言いしてな」
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「田辺先が……」 藤原先が息を呑む。
「だが、俺は止めたんだよ。旧館はが腐ってて危ねえから、るくなるまで待てって。そしたらあの先、何を考えたのか……『昼に旧館の写真を撮っていた徒がいる。あいつらに窓の様子を確認させれば、にかりがあるかどうかすぐ分かる』って言いした」
臓が、鐘を打つ。
森本健太。 写真委員だった、失踪した男子徒の。
「先は、その徒たちを呼んだのか」
「ああ。階の廊で、徒と揉めてたよ。『確認するだけでいい』『窓から見て、にがいるか教えるだけでいいから』って、必になって説得してた。……だが、徒を危険な旧館に入れるわけにはいかねえ。だから俺が教えたんだよ。階の物置――306の奥なら、旧館の階が真正面に見えるってな」
「あなたが教えたのね」 藤原先の目が吊りがった。
「にすつもり配線を見るだけだとってたんだよ! あそこなら、窓から旧館の壁が望できる。田辺は徒たちに『ここで待ってろ、勝にくな』って言い残して、自分はをした徒の様子を見に本館へ戻った。……それっきりだ」
「それっきり……?」
「ああ。分に田辺が戻ってきたときには、物置の防扉がけっ放しになってて、ともも形もなかったんだ」
井の顔が、恐怖で歪んでいた。
「俺たちは探したよ! だが、夜の過ぎから急に砂りのがってきた。
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旧館のキャットウォークの先で、何かが崩れるすさまじい音がした。見にこうにも、が抜け落ちてづけねえ。田辺は真っ青になって震えてた。『俺のせいだ、俺が指示したのがバレたら懲戒免職だ』って、そればっかり繰り返して……!」
「それで、隠蔽したのね」 私の唇から、りで震える声が漏れた。 「徒たちが勝に抜けしたことにした。自分たちの保のために」
「警察が来ちまったら、俺の宿だって営業止だ! 旧館の法放置も、消防への虚偽申告も、全部バレる! 田辺だって同じだろ! あいつが言いしたんだ、『徒たちが部から抜けして夜遊びにったことにしよう』って! 部の荷物はそのままにしておけば、ふらっとにたように見えるって!」
居のに、い沈黙が落ちた。
。 私の族が、世からの笑と傷に耐え続けた。 その正体が、の、あまりにも劣で、あまりにも矮な保だった。
「……じゃあ、あの部割り表は?」 私は机ののを叩いた。 「なぜ、最初から『306』と印字されていたんですか。が起きたのは夜の。旅のしおりは、発に作られたはずです」
井が、議そうに眉をひそめた。
「しおり……? 何を言ってる。その表は、旅のに作ったもんじゃねえぞ」
「え?」
「そいつは、失踪した翌朝……警察が来る直に、田辺が旅館の事務のパソコンを使って打ち直した控えだ」