"存在しない306号室" 第3話
「徒の衝な無断」などではなかった。 あの男はっていたのだ。 がどこへ向かったのかを。 そして、自分だけがそのから引き返し、を暗のへ送りしたのだということを。
所沢の総病院へ駆けつけたとき、集治療のの廊は、警察官と病院関係者の苦しい音で満たされていた。 集治療のい扉の向こうに、包帯をに巻かれ、無数の管に繋がれた田辺教諭の姿がさく見えた。 蓋骨骨折、急性膜血腫。 識が戻るかどうかは、分分だと言われた。
事聴取を終えた所沢署の刑事が、藤原先の横につ私に鋭い線を向けた。 「宮本さんですね。妹さんの件は、記録で確認しました。……昨夜、田辺さんと藤原さんので、体どんな話があったんですか?」
「が届いたんです」 私は震えるで、バッグからあの黄ばんだコピーを取りし、刑事に突きつけた。 「の修学旅の部割り表です。の部番号が『306』にき換えられていた。田辺先は、これについて何かをっていたはずです」
刑事は怪訝そうに眉をひそめ、用を検分した。 だが、その顔に浮かんだのは、事件を追うではなく、厄介な陳を持ち込まれた公務員のそれだった。
「宮本さん、気持ちは分かりますがね。の失踪事案は、すでに当の県警が徹底に洗っています。
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階段からの転落も、すりの状況や靴底の痕跡から、を滑らせた事故の能性がいと見られています。事件性があると断定できる証拠はありません」
「でも、このメールのきは!」 藤原先が声を荒らげた。 「『俺が緒にくべきだった』っていてあるんですよ! あの子たちは自分たちで逃げたんじゃない、田辺先に何かを指示されて――」
「教員の当の悔のでしょう」 刑事は静かに、だが鉄板のようなたさで遮った。 「引率責任者として、夜に徒の脱を許してしまったことへの自責。経ってもその圧に苦しんでいたとしても、議ではありません。この枚で、過の捜査記録を覆すことはできませんよ」
世体の壁。 制度の壁。 と同じだ。あのときも、学と教育委員会は「これ以の混乱を避けるため」という言葉で、すべてに蓋をしたのだ。
病院をたとき、のたいがり始めていた。 ビニール傘を打つ音が、やけに騒がしい。
「……宮本さん、どうするの」 藤原先が、濡れたアスファルトを見つめたままち尽くしていた。 「田辺先の識が戻らなければ、もう、誰にもあの夜のことは聞けないわ」
「いいえ」 私は濡れた傘の柄を、指がくなるほどく握りしめた。 「聞く相は、まだ残っています」
「え?」
「あの旅館です。馬楼」
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胸のポケットで、スマホが震えていた。 今朝、仕事用の端末に届いていた業界の回覧通。 野県曇郡。旧『馬楼』解体事着のらせ。
、コロナ禍の煽りを受けて完全に廃業したあの巨な造混交旅館は、今週からが入り、来週には基礎ごと完全に取り壊される予定になっていた。
「解体事が始まって更になったら、物理な痕跡はすべて消えます。……もし、あのを送ってきたがいるとしたら、なぜ『今』だったのか」
私の言葉に、藤原先が息を呑んだ。
「取り壊されるに、見つけてほしいからよ」
「きますよ、野へ。今すぐ」
藤原先のに乗り込み、央自をへらせた。 ワイパーが激しくに揺れ、のがフロントガラスの向こうに垂れ込めている。
野自から曇野をり、へ入るにつれて、灯の数はまばらになっていった。 、姉が乗った型バスも、この同じをったはずだった。 窓を流れる針葉のい緑。 湿ったと、たいの匂い。
姉は、発のの夜、私の部のドアをしだけけて言ったのだ。 『遥、何か欲しいものある? 曇野のガラス細とか、買ってきてあげようか』 私はテストの勉に追われていて、顔もげずに『別にいいよ、適当に買ってきて』と素っ気なく返してしまった。
それが、姉の顔を見た最だった。
衝ななんかであるはずがない。