"7年前に失踪した夫は、12年前から目が見えない" 第9話
仕ての良いチャコールグレーのつ揃えスーツを着た、代半ばの男。 えられた髪に、縁の鏡。 胸元には、医療法の役員バッジが鈍くっている。
そのろには、級そうなアタッシュケースを抱えた顧問弁護士が、のように従っていた。
藤原誠だった。
警察からの任同の請を受け、事聴取のために本部に呼びされたのだ。 だが、その取りには狼狽のなど微もなかった。 堂々とした、権力者特の傲な歩幅。
すれ違いざま。 男の徹な線が、私と、青ざめて震える悠真の顔を捉えた。
ち止まることすらなく、男は歩みを緩めただけだった。
私の元を通り過ぎる、ほんの瞬。 の匂いとともに、く湿った囁きが私の鼓膜に滑り込んできた。
「さん。ご愁傷様です。……ですが、息子さんのあの画、来週の曜には商社の事部のデスクに届くはずになっていますよ。お父様の次は、息子さんの番ですかね」
すれ違いざまに落とされた男の囁きが、の奥で臭く渦巻いていた。
『お父様の次は、息子さんの番ですかね』
歩きる藤原誠の背を見つめたまま、悠真のがガクガクと震えていた。 リクルートスーツのズボンが刻みに揺れ、呼吸が浅く乱れている。 その細い肩を抱き寄せようとしたとき、息子の握りしめた両の拳から、血が滲んでいるのが見えた。
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爪が、のひらの肉にくい込んでいた。
「母さん」
警察署のエントランスをたところで、悠真がを止めた。 初のたいが、のを吹き抜けていく。
「俺、内定を辞退する」
「悠真……」
「父さんは、俺を守るためにであの倉庫へったんだ。画を消させるために、あんな奴の呼びしに応じたんだろ? それなのに、俺が自分の就職や世体を守るためにを閉ざしたら……父さんは何のためにんだんだよ」
息子の瞳から、怯えが消えていた。 、母親の顔を窺い、罪悪に押し潰されそうになりながらきてきたの目ではなかった。 になった男の、覚悟を決めた目だった。
「全部話す。歳のあの、なんで父さんを尾したのか、どうして男を突きばしたのか、何を隠してきたのか……検察でも裁判所でも、全部証言する。内定なんか、またからやり直せばいい」
涙がそうになるのを、奥歯を噛み締めて堪えた。 この子は、もう守られるだけの子供じゃない。 父親が命を懸けて守り抜いた命で、自らのでとうとしている。
「わかった。……母さんも、緒に背負うわ」
そのの夕方、私たちは再び横浜央総病院の病へ向かった。 宮本修司の病のドアをけた瞬、ベッドの脇に座っていた妻の玲子が、ビクッと肩をねらせた。
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「また来たんですか……もう警察から連絡がありました。直さんのご遺体が見つかったって……もう分でしょう? これ以、私たちを巻き込まないで!」
玲子の声はヒステリックに震えていた。 だが、ベッドのの修司が、静かにを挙げた。 濁した両目をゆっくりと妻の方へ向け、く、い声をした。
「玲子。……もう、終わりにしよう」
「修司さん、何を言って――」
「隠していたものを、全部すんだ」
玲子の息が止まった。 病に、たい沈黙が落ちる。
「、おが仏壇の奥に隠し持っていた封筒だ。直があの、うちのポストに投函していったもの。……俺の目が見えないのをいいことに、おはずっと黙っていたんだろう」
玲子の唇がに変し、そのにへたり込んだ。 女は両で顔を覆い、嗚咽を漏らし始めた。
「怖かったのよ……! 直さんが消えて、すぐに藤原から話がかかってきたの。『余計な詮索をすれば、次は修司さんの医療支援を打ち切る。リハビリ施設からも追いす』って……! このを守るためには、黙っているしかなかったのよ……!」
修司はシーツをく握りしめ、掠れた声で言った。
「俺のために、弟を殺した奴の言いなりになってどうする。直は、俺の奪われたを取り戻すためにいていたんだぞ。……せ、玲子」
分。 玲子が震えるで自宅から持ってきたのは、茶い角2サイズの耐封筒だった。
表面には、直の几帳面な跡で『修司へ。